549 勝敗

 ハウラは上を向いた。


 ――パァァ……。


 巨大テントの天井にぶら下がっている、大量のマナのランプの光が瞬く。


 「ウチらには、まぶしいわなぁ……」


 目を細めながら、独り言のように、ハウラは言った。


 そして、その光が降り注ぐ、ステージの上。


 「ハウラ……」


 どこか悲しげな表情でステージの上を見つめるハウラに、仲間が声をかけようとした。


 「ハウラ、お前……」

 「ユスフ!!そこや!!いけ!!」

 「……」


 無言で、仲間もステージを見上げた。


 ユスフが鉄球を持った左手をかざした。


 ――ゴトッ。


 左手から、鉄球が落ちた。


 「なんだ?どういう……」


 ラクトが考える暇もなく、鉄球の落ちる音とほぼ同時にユスフが動いていた。


 ――ブンッッ!


 ラクトから見て右手真横から、ユスフが飛び蹴りを放つ。


 「むっ!」


 ユスフの視界から、ラクトが消える。


 ――タタタ……!


 ちょうど蹴りでユスフの死角になる角度でラクトが素早く回り込んで、そのまま間髪入れずに木の短刀を振りかざした。


 「!」


 ――タッ!


 ユスフが腰を低くして、跳躍。ラクトの一閃を回避。


 「チッ」


 ……目の端で捉えられた。……いやそもそも、木の短刀ではあの装束で防がれちまう。どうする、どうする……!


 ――タタ……!


 ユスフがラクトに回り込む。ラクトもユスフの動きを見切りながらステージを円を描いて駆ける。


 ――タタタ……!

 ――タタタタ……!


 ステージを、ラクトとユスフが駆け巡る。


 ――タッ!


 ユスフが一瞬止まり、角度を変えて跳躍。ラクトの動きの軌道を先読みしての攻撃。


  ――タッタタ……!


 ラクトが細かく軌道を変える。


 ……いける!!


 ユスフを逆に真横から捉えるかたちにもってゆく。


 「あの装束で防がれる前に……!」

 「ダメだラクト!!」

 「なに!?」


 ――キラッ。


 マナトの大声とともに、ユスフが高らかに掲げた左手の指輪が光った。


 ――カタカタ……。

 ラクトの、腰につけているダガーがまた震えた。


 「あそっかヤッベ……」


 ――ゴンッッ!


 「んがっ!!」


 鉄球が、ラクトの後頭部に直撃した。


 ……やべぇ、コイツ、つええ……。


 一瞬、頭が朦朧もうろうとして、意識が飛びそうになる。


 ……いや、待てよ?鉄球が磁力でってことは……。


 「ラクト!!前!!」

 「!」


 目の前、ユスフの右拳。


 「くっ!」


 ――サッ!


 ラクトがまた瞬時に、ユスフの視界から外れた。


 「コイツ、頭にくらっといて、どんだけ動けんねん……」


 もはや関心した口調で言いながら、ユスフもステージを駆ける。


 ……ってぇ……いやそれより鉄球は!


 素早く移動しながら、ラクトは鉄球の位置を確認した。


 鉄球は、ラクトの頭に直撃した後、そのまま落ちてステージに転がっている。


 ――タッッ!


 今度はラクトからユスフに仕掛ける。


 「あぁ!!ラクト!!」

 再び、マナトが叫んだ。


 「もう遅い!!」


 ユスフの起こす磁場で鉄球が飛ぶ。


 ――カタ……。

 ダガーの震え。


 ……いまだ!!


 ラクトがさらにスピードに乗った。


 ――ッタァン!!


 跳躍。


 ――シャキ……。


 跳びながら、ラクトは腰につけているダガーを逆手持ちに抜いた。


 「な……!」

 「いまなら当たるってことだろ……!!」

 「しまっ……!」


 ――ザシュ……!


 ラクトのダガーがユスフの横脇腹を引き裂いた。

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