548 ハウラ、言いかけた言葉

 「あのラクトって兄ちゃん、大したもんやなぁ」

 「ユスフが、まさか押されてるとはな」


 ステージ上手側で観戦しているハウラ商隊のメンバー達が、それぞれ関心した様子で言った。


 「ちゃんと気づいとったんやな、ユスフが磁性を利用して戦っているのを」

 「やな。でも、よう分かったなぁ。磁場は見えへんから、案外、気づかれへんもんなんやけど」

 「向こうに、そのあたり詳しい人間が……」

 「いつまで寝とんのや立たんかい!!」

 「ぅん!?」


 ハウラがユスフに向けて怒鳴った。その眉間にはしわが寄って、なかなかの表情になっている。


 「おいハウラ、なにアツく……」

 「見てたら、やっぱり、戦う以上は勝たなあかんて思ってもうたわ!!」

 「おいおい……」


 ステージ上、ラクトに少し遅れてユスフが立ち上がる。


 「ぬぅ……目回ってもう……」

 「ユスフ来てるで!!」

 「!!」


 ラクトがもう目の前で木の短刀を振りかざしている。


 「うわっ!」


 ――ヒュッ!


 ラクトの斬撃を、横に飛び込んで回避。


 ――ザザ……!


 再び、ユスフが体制を崩してステージに倒れた。


 「うし!これで終わり……!」


 そこにラクトが追撃をかける。


 「く、くっそ……!」

 「ユスフ忘れたんか!!相手の武器は木製やぞ!!」

 「!」


 咄嗟にユスフが、自らの腰につけていた光沢のある緑の布ベルトをほどいた。


 ――バサッ!


 そして、自ら纏っていた黒装束を、木の短刀を振り下ろすラクトを覆い被せた。


 ――バスッ!


 木の短刀が装束に受け止められる。


 「うわっ!?」


 そのままラクト自身も勢い余って装束に飛び込んだ。


 「ぐわわ!」


 そしてユスフも装束越しに飛び込んできたラクトに巻き込まれ、


 ――ゴロゴロゴロ……!


 2人、ステージを転がる。


 「うわわわ」

 「なんか、スゴいことになっとる……」

 ハウラ商隊のメンバーが言う。


 「ユスフ!!とりあえず距離とれ!!」

 ハウラが怒鳴った。


 「おす!!」


 ――ボスッ!


 石柱の前あたりまで転がったユスフが、装束越しにラクトを蹴り飛ばした。


 「ぉわっ!?」


 ラクトが宙を舞う。


 「っと!」


 しかし空中で体制を建て直して、ラクトは足から着地した。


 「クッソ、木だと切れねえ……!」

 「……へへ、おもろいなぁ」


 ユスフが笑いながら黒い装束を拾い、立ち上がった。


 「……ユスフのヤツ、なんていうか、イキイキしとるな」

 「えっ」


 ハウラ商隊のメンバーの一人が言い、一度そのメンバーを見た後に、ハウラはユスフを見た。


 ――バッ!

 ユスフが左手をかざした。


 ――カタカタ……。


 ラクトの腰のダガーが震え出す。


 「!」


 ――タッ!


 後ろからの鉄球の気配に気づいたラクトが動く。


 「そろそろ決着つけようや!!」


 叫び、ユスフも跳躍した。


 テントの天井から吊り下げられた、たくさんのマナの照明に、ユスフの左手の指輪と、鉄球と、紫色の瞳がキラキラと輝いた。


 装束を脱ぎ捨て、白いインナーと緑のハーフパンツ。細身でありながら、筋肉質な身体。黒い装束は、肩にかけている。


 「……」


 そんなユスフの姿が、ハウラの瞳に映る。


 そして向かいには、やんややんやと、自分達の仲間を応援するムハドの商隊が、見える。


 「……そら、ウチらかて……」


 ハウラが、近くの仲間にだけ聞こえるような声で言いかけたが、途中でやめて首を振った。


 「言っても、しゃーないわ」

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