547 2人の激闘

 ――ゴスッ!


 「ぁが……!」


 ラクトの背中に、鉄球が直撃した。


 「!?」


 ラクトの足が、地面から離れる。鉄球が、そのままものすごい力でラクトを押し出している。


 「くっそ……!」

 「ラクト!!前!!」

 「!!」


 マナトの声で前を向く。


 目の前には、ユスフ。跳躍して、回し蹴りの体制。


 このまま鉄球に押されれば蹴りがドンピシャで直撃してしまう。


 「こんのぉぉ!!」


 ラクトは勢いをつけてグルン!と身体を無理矢理捻った。


 「むむっ!」


 ユスフが蹴りを入れようとした足を止めた。


 ――ズルッ。


 鉄球が、ラクトの背中からずれて、外れた。しかし身体を捻った勢いに負けて、ラクトが地面を転がる。


 ――カァン……!


 ユスフの左手に鉄球が飛び込む。衝撃で左手が少し後ろに下がるが、鉄球の前進する勢いはなくなり、完全に左手に収まっている。


 「いでで……」


 ラクトが、背中をさすりながら立ち上がった。


 ……あれが、磁性を操る力か。


 マナトから聞いた、ユスフの持つ磁性の力。


 簡単に言えば、金属を引き付けたり離したりする力で、その力はダガーを触れさせなくするだけでなく、今のように、飛ばした鉄球を磁力で引き付けることもできるということだ。


 ……あの玉も、気を付けながら、やらねえと。


 引っつくようにユスフの左手に収まっている鉄球を見ながら、ラクトは思った。


 ……考えながら戦う、だな!マナト!


 「やるやん」


 そんなラクトを軸に時計回りに歩きながら、ユスフが言った。


 「あのまま顔に回し蹴り直撃さしたろ思たのに」

 「ったく、変な能力持ちやがって!」

 「まだ、血ぃ出てへんな?」

 「たりめーだ!」

 「そうこなな!!」


 ユスフが立ち止まって手をかざした。


 ――ポンッ!


 ユスフの左手から、再び鉄球が放たれる。


 「よっと!」


 ラクトが横にステップを踏んだ。飛んでくる鉄球を回避。


 ――ゴッッ!


 鉄球が、石柱に当たって落ちる。


 ……なるほど。対角線上にオベリスクがあるように飛ばしているのか。だから、さっき俺を軸に歩いて……よし。


 ひとり、ラクトはうなずくと、木の短刀を構え、ユスフへ向かって駆け出した。


 「……」


 ユスフが回り込もうとする。


 「!」


 と、ラクトが少し斜めに角度を変えた。石柱とユスフの対角線上にならないように動く。


 「むむっ!」

 「よし!!」


 ――タァン!


 ラクトがユスフへ飛びかかった。


 「はっ!それで見切ったと思うんちゃうぞ!!」


 ユスフがその場で跳躍して、足を振り上げた。


 「おらっ!!」


 ――シュッッ!


 ラクトの下から振り上げる一閃。


 「はあっ!!」


 ――ブンッッ!


 ユスフがかかと落としで対抗してきた。


 ――ドッッ!!


 「うわっ!!」

 「ぬぉ!!」


 2人とも、お互いの力が合わさった衝撃で突き飛ばされた。


 ラクトが地面を転がりつつ、すぐに起き上がる。


 「ラクト!!相手、体制崩してるぞ!!」

 ケントの大声。


 見ると、ユスフのほうが少し飛ばされた距離が長いようだ。


 ラクトの攻撃が下から上への軌道だった上、かかと落としの動きの反動で、ラクトよりも体制がより崩れている。


 「いける!!」


 ――タッッ!


 ラクトはすぐに跳躍した。

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