483 アブド、舌戦④

 「言動に気をつけたまえ、アブド公爵」


 灰色のクーフィーヤの公爵が口を挟む。


 だが、アブドは礼を言いつつも、まったく引かなかった。


 「失礼。ご忠告、感謝いたします。……しかし、私は耐えられない。ここにいる国賊どもと無駄な討論をするより、」

 「なに、国賊だと……!」

 「言ったな……!」

 「あの通りで触れ合った不適な彼らと、明日への百計を模索するほうが何倍もマシである!」


 ――ポ~ン!


 アブドは言い放つと、手に持っていたビリビリに破いたクサリク文書の紙を上に放り投げた。


 ――ヒラヒラ……。


 大量の、破かれたクサリク文書の紙の欠片が、テーブルの上に落ちる。


 「この若造が!」

 「器物破損だ!」

 「少しばかり早く公爵に上り詰めたと思えば、調子が過ぎるぞ!」


 野次が飛ぶ。クサリク文書の記述迎合派の公爵らが、一気に不快感を現した。


 「……取り消しなさい、いまの発言を、アブド公爵……!」


 その中でも、外交担当の公爵は、ことさら憤慨している様子だった。眉間にはシワが寄り、目の端には、青筋が立っている。


 「ほう、国賊と言われたのが不服ですか。どうしたのですか、すごい顔になってますよ。その怒り、少しはジンに向けたらどうですか」


 その外交担当の公爵に、アブドはあくまで冷静に、やはり皮肉混じりに言った。


 「……フゥゥ」


 外交担当の公爵は、少し長く息をはいた。


 すると、今度は逆に、冷ややかな笑顔をアブドに向けた。


 「皆さん、どうやら、アブド公爵は、先の私の話が、聞こえていなかったようです」

 「あぁ、なるほど!」

 「あはは!」

 「そのようですなぁ」

 「アブド公爵、ここは、パフォーマンス会場ではない。メロの国の運命を左右する、会議の場なのですよ」

 「そうだ!」

 「その通りだ!」


 外交担当の公爵が、さとすようにアブドに言うと、周りも声援を送った。


 「我々の双肩には、何百万というメロの国民の命が、乗っている」

 「そうだ!」

 「いま、ジンの脅威を前にして、このメロの国の、安穏と、繁栄を保ち得るために、極力、民に被害なく、最小限で事を済ませる……これのどこが、国賊だと言うのか……!」


 外交担当の公爵の声が、ここにきて、荒々しさを含み出した。激情が垣間見える。


 「……それに対し、アブド公爵、あなたが考えるように、ジンに抗うとき、どれほど国が損傷を受け、疲弊し、なにより、国民の血が流れることになりますか……!!」

 「そうだ!!」

 「そうだぞ!!」

 「どちらが国賊というのか!!アブド公爵!!」


 外交担当の公爵が怒鳴った。激情のあまり、途中からはずっと、声が裏返っていた。


 ――パチパチパチパチ……!


 クサリク文書の記述迎合派の公爵たちが拍手喝采を送った。


 「黙れ!!!」


 アブドが怒鳴り返した。


 「あなたの発言は、父母にも君主にも恩を感じてない、卑劣な人間でなければ言えないことである!!」

 「なんだと!?」

 「このメロの国に長く仕えて、その安定した寝食をむさぼっていながら、ジンが出現するを耳にするや否や、手のひらを返したように、なんの罪もない一人の少女をジンに差し出す……それならこんな会議など、いらぬ!!ジンに好きなままさせておけばよい!!」


 ――ビシッッ!


 アブドが外交担当の公爵を指差す。


 「私には、あなたがジンのまわし者にしか見えない!!聞かせてほしい!!あなたはジンのまわし者か!?あなたにとっての恩人も、大切な人も、ジンの排除対象となったら差し出すか!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る