195 深読みシュミット①

 「い、いや、これは……!」


 爆笑するケントの傍らで見ていたシュミットが、身を乗り出した。


 「確かに見た目は、2人の言うそれに見えて仕方ない。し、しかし、マナトくんの熱弁を聞いていると……コスナといったね?それはいったい?」


 シュミットはマナトに真剣な視線を向けた。


 「あっ、あの、一応、スナネコなんですけど」

 「スナネコ……!確かに、目を細め、角度によっては……!!」


 シュミットは両手の人差し指と親指で四角形をつくると、見る角度を変えながらマナトの作品を観察しだした。


 「こ、この角度でなら、そう見えなくもない……!!」


 シュミットは言うと、手の四角形を解き、頭を抱えて天井を仰いだ。


 「なんてことだ……ひとつの彫刻で、2つの生物が……いまだかつて、このヤスリブでこのような作品を産み出す者がいたろうか……感動した!!」


 どうやら、シュミットには、マナトの作品が秀逸なものと見えたらしい。


 「いや、たぶん、僕が下手なだけかというか、偶然というか……」


 熱くなるシュミットに対し、逆にもう、マナトは冷静になっていた。


 「よし、そんじゃ、次は、ミト」

 頃合いを見て、ラクトが言った。


 「分かった!」


 続いて、ミトが布を取り外した。


 ――ころん。


 「えっ?」

 「え~と、これ、えっ?」


 手のひらサイズの、小さな、丸っこい物体が転がった。


 「石ころ?」

 「あっ!マナト、せいか~い!」


 マナトが言うと、ミトが嬉しそうに手を叩いた。


 ミトが彫っていたものも、マナトと同じ大きさの木材からだ。延々、この大きさになるまで、ミトは木材を彫り続けていたことになる。


 ……なぜ、これを作ろうと思ったんだ、ミト……。


 「あははは!!つくった意味が分からねえよ、あはは!!」

 ケントは爆笑したままだ。


 「な、なんてことだ……!!」


 しかし、またもやシュミットが身を乗り出した。


 「あの大きさの木材から、あえてこの小さな石ころをつくる……彫刻刀で彫り続けるのは大変だったはずだ……これは我々に、結果よりも、つくられるまでの過程が大事なことを教えてくれている!なんて素晴らしい作品なんだ!!」

 「シ、シュミットさん?」

 「感動だ!感動しかない!!」


 シュミットだけ、興奮した気持ちを押さえきれていない様子だった。


 「よし、最後は、俺か……」


 ラクトが、緊張した様子で布を持った。


 「そりゃっ!」


 ラクトの作品が、披露される。


 「うわ……」

 「こ、これは……」


 ミトもマナトも、そのあまりのおぞましさに、手で口を覆った。


 かろうじて、人間であることは分かる。


 だが、顔は膨れ上がったフグのような顔をしていて、目は右と左で方向がおかしいことになっている。口もいびつな歪み方をしていて、笑っているのか怒っているのか分からない。


 「め、目を合わせたら、呪われそう……!」


 危機を感じて、とっさにミトは立っている場所を移動した。


 身体もバランスがおかしくなっていて、振り上げている右腕と胴体と両足が全部同じ太さだ。逆に左腕は、あるのかないのか分からないほどに細い。


 唯一、後ろで束ねた感じを表現したロングヘアーの髪の毛は、分かりやすかった。


 「ごめん、ラクト。一応聞くけど、人間だよね?」

 「当たり前だろ!……俺は、結構な出来だと思うんだけどなぁ」

 「……」


 ……ネタにすらならない。


 「お前逹も、知っている人物だぜ」

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