194 マナトの作品

 「よ、よし……!」


 その出来のよさに、マナトは思わず声が漏れた。


 練習用の木材というだけあって柔らかく、すいすいと彫刻刀は入っていったものの、自分が理想とする形を仕上げるというのは、やはり、難事だった。


 それだけに、出来上がった嬉しさというものは、半端ない。


 「んっ、できたのか?」

 「一番乗りだね、マナト」


 ラクトとミトが顔を上げた。


 とっさに、マナトは自分の作品を隠した。


 「ミトもラクトも完成したら、みんなで見せ合おう!」

 「フッ、なるほど了解」

 「分かった」


 マナトも2人の作品を見ないように、少し離れた。


 改めて、自分の作品を見る。


 ……か、完璧だ!


 小さな身体を丸めて、静かに眠りに落ちているコスナの彫刻。


 ……スヤスヤと、寝息が聞こえてきそうだ!


 特に難しかった、というか、こだわったのは、耳と、前肢だ。


 寝ている時、耳が少し垂れている感じを出す、これにとても苦労した。そして、前肢は、ちょこんと先っぽだけ見える感じが、どう掘ればいいのかを悩みに悩んだ。


 そうしてできた、渾身の一作。


 「……よし!僕も出来たよ、マナト、ラクト!」

 「俺もだ!」


 ミトとラクトも、完成したようだ。


 各々、作品を布で隠し、アトリエの中央に集まった。


 ケントとシュミットも、興味をそそられた感じで寄ってきた。


 「そんで、誰から見せる?」

 「一番最初にできた、マナトからでいいんじゃない?」


 わくわくした感じで、ラクトとミトが言った。


 マナトはうなずいた。


 「よし……それっ!」


 マナトは布を取り外した。


 「おぉ!」


 皆がマナトの作品に注目した。


 「これは……なんだろう?見たことあるような……」

 「うん、確かに」

 「でも、マナト、なかなか上手いと思うぜ」

 「そうだね、完成度高いって感じ」


 ミトとラクトが、関心した様子で、マナトの作品を見ながら、なにやらつぶやいている。


 「みんなのよく知っている動物だよ!ヒントは、ここだよ!」


 マナトは、こだわった耳の部分を指差した。


 「だよな!そこ、ぜったいこだわってるよな!分かる分かる」

 「う~ん……あっ!分かった!」


 ミトがマナトの作品を指差しながら、確信に満ちた声で言った。


 「ナメクジ!」

 「……はっ?」

 「おぉ~、ミト!それだ、それだよ!」


 ラクトも、合点いった様子で手を叩いた。


 「くっそ~、先に正解当てられちまっ……」

 「いや、ちが、違う!不正解!不正解!」


 慌ててマナトは否定した。


 「えっ?」

 「違うの?」

 「いやどう見ても違うでしょ!身体を丸めて、気持ち良さそうに眠ってるコスナでしょ!」

 「コスナだって?」


 改めて、ミトとラクトはじ~っとマナトの作品を見た。


 「いや、ナメクジにしか見えん」

 「ちょ……ここ見て、ここ!どう見ても耳でしょ!」

 「いやぁ、どう見ても触覚じゃね?」

 「触覚!?」

 「だって、前に突き出てる感じだし」

 「いやいや、これは垂れてる感じを表現してるの!それにこれ、ちょこんと出た、かわいらしい前肢!」

 「ナメクジの身体の一部でしょ」

 「なんですと!?」

 「……ぷははは!!!」


 3人のやり取りを見て、堪えきれずにケントが吹き出した。


 「ちょっと勘弁してくれよ、マナト!あははは!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る