196 深読みシュミット②

 「えぇ……」

 「まさか、この中にいる誰かじゃないよね?」

 「違うに決まってんだろ!この振り上げた右拳、分からねえかなぁ?」


 ラクトに促され、2人とも右腕を見た。


 「うわっ、よく見ると、5本の指の第2関節あたりから、もう一本ずつ、指が生えてるんじゃ……!?」

 「もう、怖いよ、この彫刻……」

 「ングフフ……」


 ラクトの彫刻を見て、さすがに笑ってはいけないと、必死に堪えてきたケントが、もう限界といわんばかりに吹き出し始めた。


 「違うって!まったく、仕方ねえなぁ」


 ラクトがため息すると、人指し指を立てた。


 「ヒントだ。アクス王国で、行動を共にした女だ」

 「えっ?」


 ミトとマナトは顔を合わせた。


 ロングヘアーの髪の毛という一点で、一人しか、いない。


 ヒント、というか、もはや答えだった。


 だが、この彫刻からそれを想像するのは、あまりにも無理があった。


 「ま、まさか……これ、ウテナ?」

 「……当たりだ」

 「じゃあ、この指の第二関節って……」

 「ナックルダスターだったのか……」


 少し、恥ずかしそうに鼻をすすりながら、ラクトは話し始めた。


 「ま、まあ、アクス王国ではいろいろと世話になったっていうか、なんていうかさ。いつか再会することがあったら、プレゼントしてやろうと……」

 「えっ!?これ、プレゼントするの!?」

 「だ、ダメだよ!」


 ミトとマナトが、ビックリしてラクトを止めた。


 「やめようよ、ラクト!これ、あげちゃダメだよ!ぜったいダメだよ!!」

 「これウテナに見せたら、今度こそ、マジで殺されちゃうよ!!」

 「あははは!!も、もうやめてくれ、あはは!!」

 「す、素晴らしい……!」


 爆笑するケントと、そしてその隣ではやはり、興奮した様子のシュミットが、口をガクガクさせていた。


 「はじめての彫刻でもう、人に挑戦するとは……なんて挑戦的な精神を持っているんだ!!そうだ、私は、この精神を忘れていたんだ!!」


 すると、シュミットは突然、黙り込んだ。


 「……」


 そして、フラフラと歩き出した。


 「あの、シュミットさん?」


 マナトの声が聞こえていない様子でアトリエの奥へと、シュミットは消えていった。


 ――ズズズ……。


 「あ、あれは……!」

 マナトは身を乗り出した。


 シュミットが、アトリエの奥から引っ張り出して来たもの、それは、製作途中の、十の生命の扉の彫刻だった。


 その彫刻は、外に展示されていたものと違い、綺麗な光沢のある大理石でつくられている。


 と、シュミットは床に転がっていた、大きな鉄のハンマーを持った。


 シュミットが、ハンマーを振りかぶった。


 「えっ」

 「シュミットさん?」

 「う、ウソだろ?」

 「こんなもの、彼らの作品の足元にも及ばないんだ!!」


 ――ドゴォオオ!!


 ハンマーは思いっきり直撃し、十の生命の扉の彫刻は破壊された。破壊された石の破片が、バラバラと散らばった。


 「僕はこの十の生命の扉の彫刻を、イチからつくり直すことに決めた!!」

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