197 村長の家への道中にて
改めて、ケント達は村長の家へと向かっていた。
――ゴロゴロゴロ……。
台車をシュミットの家で借り、その上にラピスの入った木箱を乗せて、青空美術館のような村を進んでゆく。
「いや~、さっきのシュミットさん、ヤバかったなぁ」
「んだねぇ」
「いきなり、自分の彫刻、壊しちゃうなんてなぁ」
「んだねぇ」
台車を引きながら、ラクトとミトが話している。
「あぁ~、笑った笑った。腹筋が鍛えられたぜ」
「あはは……」
先頭を歩くケントが言い、マナトは苦笑した。
――ゴロゴロ……。
……なんだかんだで、結構、僕ら、この村にいるなぁ。
マナトは思った。
すでに岩石の村で、3泊4日していた。
「あ~!キャラバンのお兄ちゃん達だ~!」
外で遊んでいた子供達に声をかけられる。顔見知りになってしまっていて、親しく話しかけてくるようになってきていた。
「やあ、また会ったね」
ミトが応じた。
「今日も、お姉さまのとこに行くの?」
村長の娘は、どうやら村のみんなから、お姉さまと呼ばれているらしい。
「そうだよ」
「今日こそ、会えるといいね!はい、これあげる!」
子供達の中から一人、女の子が出てきて、小さな手を広げた。
「おぉ、くれるの?って、えっ!」
「おい、ミト、どうしたって……えっ!」
子供の手のひらの上にあったのは、小鳥の木彫り彫刻だった。
「これ、君がつくったの?」
「うん!小鳥さん!」
「マジかよ……」
ミトとラクトが唖然としているのを見て、マナトも覗き込んだ。
「えっ!すご……」
ものすごく、上手い。小鳥のクチバシの形、しなやかな身体のライン、また翼の毛並みの表現まで完璧だ。
「それ、お守りね!お兄ちゃん達、これで、お姉さまに、会えるからね!」
「……ありがとう」
子供達はキャッキャ言いながら去っていった。
……自分達の作品なんて、とても見せられるものではない。
小鳥の彫刻を眺めながら、3人は思った。
――ゴロゴロ……。
「ホント、今日こそ、会ってくれっかな~」
ケントがつぶやいた。
「そうですよね。もう、これで訪問4回目ですもんね」
「ああ。まったく、困っちまうぜ~」
そう言っても、ケントに焦りの様子はなかった。今日も無理だったら、適当に宿屋で滞在してという、そんな感じ。
……ていうか、今回、とっても、悠長だ。
マナトは思った。
キャラバンの村はおろか、待っているであろう鉱山の村にも、交易が遅延している連絡を特に入れていない。
といっても、連絡を取る手段がないので、どうしようもないのだが。
やがて、村長の家が目線の先に姿を現した。
「あっ、ニナさん!」
村長の家の中庭で、庭師のニナが手を振っていた。
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