198 村長の娘、サーシャ=メネシス

 「こんにちは、ニナさん」

 「いらっしゃい。こっち、こっち」


 ニナに促され、台車を中庭へと移動させた。


 「今日は、会えそう?」


 木箱を台車から持ち上げながら、マナトはニナへ聞いた。


 「うん!」


 ニナは笑顔で、コクリとうなずいた。


 「あっ、ホントに?」

 「お兄ちゃん達の持っているものが、必要になったみたいなんだよね」


 そう言うと、ニナは家の玄関を開けて、大声で言った。


 「来たよ~!」


 すると、家の中から召し使いの、割烹着服姿の女が出てきた。


 「お待ちしておりました。お入り下さい」


 木箱を台車から持ち上げ、中へ。


 玄関に入ってすぐのところにある、待ち合い室を抜けた。


 「あっ、ここで待たないのか?」

 通り抜けながら、ケントが召し使いに言った。


 「はい。今日は直接、お姉さまのアトリエまで、ご案内いたしますので」


 召し使いに続いて、ケント達は歩いた。


 「ボクも~」

 「えっ?」

 「えへへ~」


 ニナが一番後ろで、ちょこちょことついて来た。


 白を基調とした、輝く大理石の床。


 左手には等間隔で、部屋の扉。右手には、ニナの手入れが行き届いた中庭。


 どんどん、奥へと進む。すると、らせん階段が姿を現し、そこを上ってゆく。


 「あっ、そういや、交易担当の、その娘の名前って、聞いてなかったな」


 召し使いにケントが聞いた。


 「名前って、なんていうんだ?」

 「サーシャ=メネシスでございます」

 「メネシス……だと?それって……」


 ケントが、驚いた様子で言った。


 「アクス王国の、王家の名じゃねえか」

 「あっ!ぜったい、ダメだからね!」


 ニナが小走りに、ケントに走り寄った。


 「なにが?」

 「その国の名前!お姉さまの前で、出しちゃダメ!」

 「どうして?」

 「どうしてもさ!」


 さらに奥へ。


 「いま、扉、いくつ抜けた?」

 「20個くらい、かな?数えてなかった」

 ミトとラクトが、歩きながら話している。


 「広いね」

 「アトリエ、一番奥にあるんだよね」

 マナトの言葉に、ニナが答えた。


 やがて、一度、外へ出た。


 「ここ!ボクの自慢の、場所!」

 ニナがはしゃいで言った。


 「へぇ~」


 2階の渡り廊下だった。


 美しい中庭の風景が見渡せる。そして、その先には、村の景観も見ることができた。


 そんな渡り廊下の先には、別館のような建物があった。


 建物の前へ。


 召し使いが、扉を開ける。


 シュミットのアトリエの中で見たような光景。雑多に置かれた石材や木材、たくさんの小道具。


 その先に、一人の女の後ろ姿が見えた。


 何やら作業をしているようで、腰を屈めている。


 「お姉さま。キャラバン達を、連れて参りました」


 召し使いの言葉に、女が振り向いた。


 淡いピンク色の、上半身から足まで一繋ぎのドレス。腰のあたりの切り替え部分から、足元の裾に渡るスカートは、ふんわりと膨らんでいる。


 長いストレートの金髪に、琥珀色に輝く瞳、細い眉毛に長いまつ毛といい、生まれながらの高貴な血を思わせた。


 ドレスの淡いピンクに似た肌は、細身でありながら肉感のある、女性特有の柔い魅力が全身に染みていた。


 「……」


 無言で、サーシャはケント達を見つめていた。


 召し使いが振り向く。


 「サーシャ=メネシスさまでございます」

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