32 共行②/キャラバンの戦い

 キャラバンは、できる限り戦いというものを避ける傾向がある。


 交易品の紛失や損壊というものが、何よりキャラバンにとって恐れることであるからだ。


 そのため、サライ内では、先のルートにおける盗賊の出現や、獰猛な獣の生息などの情報を交換し合い、そこで得た情報をもとに交易路、つまりキャラバンルートの変更などの判断を行っていた。


 ケント商隊は、目的地までの最短ルートは盗賊が蔓延しているということで、一度迂回して、西側にあるサライで停泊した後、目的地である国に入ることにした。


 また、フィオナ商隊も西のサライを目指しているということで、今回、一緒に目的地を目指す『共行きょうこう』をすることにした。


 7人の、マント姿の男女、そして20体弱のラクダ達が一列に綺麗に並んで、進行している。


 道は平坦だが、昨日まで歩いてきた砂の世界と違い、サボテンなどの草木が少し生えており、岩も見受けられた。


 列の先頭では、ケントとフィオナ、隊長同士が並んで、話をしながら歩いていた。


 「……なるほど。それじゃあ、フィオナ商隊は東方遠征の帰りって訳か」

 「ええ。でも、残念だったわね。盗賊のせいで最短のキャラバンルートが使えないなんて」

 「まあ、キャラバンあるあるだな。行きたいルートに限って盗賊がいるっていう。フィオナ商隊は大丈夫だったのか?」

 「行きの途中、東方の国付近でグリズリーに遭遇したわ。でも……」


 フィオナが後ろを振り向き、後ろの一人を指差した。


 ウテナが、むすっとして、不機嫌そうに歩いている。


 「あのコが拳でやっつけた」

 「拳で?おいおいマジか」

 「まあ、相手も一匹だったからね。あのコ、ナックルダスターで何でも倒しちゃうのよ」

 「ひぇ」

 「でも、ウテナ、とっても乙女なのよ。かわいいでしょ?」

 「いや、おっかねえよ」


 ケントとフィオナは、もう一度、後ろを見た。


 「う〜ん、なんか空気が重いわね」

 「ああ。まあ、思春期の男女同士、ちょっと、意識しちゃってるんじゃないか?」

 「あら!多感ね!あはは!」

 「ははは!」


 先頭の2人は笑い合った。


 一行の後方を歩いていたミトが、ラクトに歩み寄って言った。


 「どうしたの?ラクト。朝からちょっと、元気ないよ」

 「えっ……。いや、何でも」


 ミトは何も知らない。純粋にラクトを心配していた。


 「……ねえ、ウテナ。あの、ちょっと野生感あるコ?」

 「……そうそう」


 ルナがウテナに寄ってきて、何やらひそひそ話を始めた。


 その光景を、一番後ろで、マナトは見ていた。


 一瞬、ラクトが振り返り、マナトを見た。『マナト、助けてくれ〜』という、ラクトの心の声が聞こえてきた。


 完全に、学校で女子に嫌われた男子のそれが、目の前に広がっていた。


 ……ドンマイ、ラクト。


 マナトが思った、その時だった。


 一行の横側、大きな岩の後ろから、黒服に黒い布で顔を巻いた集団が姿を現した。


 「おいおい、こっちにもいたのかよ……」

 ケントが、ため息した。


 「やるよ!ウテナ!ルナ!」

 フィオナ、ウテナ、ルナが構えた。


 「俺達も戦うぞ!」

 「はい!」

 「はい!」

 「えっ?あっ、うっす」


 ラクトだけ、心ここにあらずといった感じで、ケントに返事した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る