576 アブド、ステージ下手を見下ろしながら

 アブドも少し身を乗り出して、ステージ下手側を見下ろした。


 先ほどまでの、陽気なゲーム感覚での雰囲気とは、少し違った様子。


 中心者と思われる者達が集まって、なにやら話し合っているようだ。


 さすがに最後の決戦とあってか、第二試合のようなことにはならないようにとか、そんなところだろう。


 それに、相手のサロンから出てくるのは、間違いなくあの人物。


 ……ムハドと、マナトという水使いは、輪にはいないようだが。


 「おっ、来たで……!」


 アブドが思っていると、ユスフが言った。


 これまで、遠巻きでステージ上の戦いを見守っていたムハドと、一緒にいた数人が歩いてきて、話し合っている仲間の輪に加わった。


 ……たしかに、期待させるものはあるが。


 「まあ、彼はおそらく、組織の中では非戦闘の部類だろうな」


 ムハドは言った。


 「なんでそんなことが分かるんや?」

 「彼のことを、常に護衛している者達がいる。前も、彼のほうから私に近づいてきたとき、手練れの部下がピッタリついて護衛していた。そして、なにかを察して彼の前に出ようとする仕草もあった。強い者なら、そこまでの挙動には、ならないはずだ」

 「なるほど」

 「で、でも、そう言われると、守ってあげたくなるような気も……!」


 ハウラが言った。なかなかゾッコンのようだ。


 「……そういえば、おっさん、前に言ったやんか」

 「んっ?」

 「あのムハドってあんちゃんに、嘘をついてもバレる、と」

 「あぁ、そうだな」

 「それってどういうことなんや?あのムハドって兄ちゃん、心が読めるんか?」


 ユスフが言ったとき、


 「……えっっ!?ユスフなんやそれ!?」


 ――ガシッ!!


 「ぐぉっ!?」


 ハウラがイスから飛び上がるや否や、ユスフの胸ぐらを掴んだ。


 「ちょちょちょハウラさま……!?」

 「ゆ、ユスフ……ここ、心が読めるって、どういうことやねん……!!」

 「い、いや、それをアブド公爵に聞いてるんですが……!」

 「そんな……心を読まれてるとか、ウチらが……!」

 「安心したまえ」


 アブドはハウラをなだめるように言った。


 「そのように思っているだけだ。少しばかり、洞察力に優れていて、かなり的確なものを、私は彼に感じた。しかし、明確に心が読めるとか、そういうことではない。ゆえに、君たちのことについても、異国から来たキャラバンという認識だろう」

 「ほっ、そんなら……」


 アブドの言葉に、ハウラは胸を撫で下ろしたように、ユスフから手を離して、座った。


 ……まあ、もしかしたら、ある程度、察しているのかもしれないがな。


 アブドは思った。


 「……えっ、でも洞察力に優れているとか、ほんならさっきやって、ウチ、ムハドはんに声をかけて……!」

 「あぁ、それに関しては、気づいてしまっているかもしれないなぁ」

 「うそや~~~~ん!!」


 ハウラが叫んだ。ただ、言葉とは裏腹に、そこまで嫌そうではない。


 と、後ろで声がした。


 「ルナさまがいないぞ!?」

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