575 アブド、ギルタブリルのマナの考察

 「まあ、強いものもいれば、弱いものもいるのだろう」


 イスの背もたれに身をあずけ、足を組んで少しだらけた姿勢で、アブドはユスフへ言った。


 「ああいうチームは、強いヤツばっかりおるっていうのが、お決まりちゃうんか……」

 「組織はそんな単純なものではない。役割によっては、強さを必要としないものもあるだろう」

 「でも、せやったら、強いヤツ出せばええやん……」

 「相手が少女だったからな、勝てると思ったのだろう」


 ……やはり、ギルタブリルのマナの力は、磁力で間違いないようだ。


 あまり思考を割かずにユスフに応えつつ、アブドは思った。


 エキシビション時、それはユスフと戦っていた青年も気づいていたらしく、戦闘時、途中で懐に忍ばせていた木のダガーで切り込んでいたし、最後は磁場を見極めた一撃で、ユスフに勝利していた。


 ……あの能力で、つくることができるのだろうか。


 アブドは思った。


 マナの兵器について、もう少し深く理解しておきたい。


 アブドが入手した情報によれば、その兵器は瞬時にとてつもないエネルギーを放出することで、対象者を跡形なく消し去るという、そういったものだった。


 若干の誇張は否めないが、それでもジンに免疫のないこの国の持っている武力以上の効果は期待できた。


 さらに、返書には「ギルタブリルのマナの力を得た能力者が、そちらで兵器の製作を行う」とあった。


 つまり、必要なものを用意してくれれば、ユスフが、つくるというのだ。


 たしかに、その送られてきた設計図は、もちろんアブド自身、そちらの専門ではないので分からない部分もあるが……見る限り、難しい構図をしているようには見えなかった。


 だが、


 ……果たして磁力が作用して、兵器と成し得るか。


 それについては、否、だ。


 素人目にも、それは明確にアブドには分かった。


 ……つまり、おそらくギルタブリルのマナの力は、磁力のみに限定されるものではない。


 そう、アブドが思ったとき、


 「……てか、おっさん」


 ユスフが振り返って、少し目を細めてアブドを睨み付けるように見ていた。


 「割と、素行悪いんやん」

 「んっ、あぁ、失敬失敬」

 「俺のこと言えへんやん」

 「んっ?あははは!」


 アブドは笑った。


 「なんだ君、まだ昨夜のことを根に持っているのかね。だが、その通りだ、ユスフくん」

 「はっ?」


 アブドは少しだけ座る姿勢を戻しつつ、言った。


 「君のことを、私は本来、言う資格はない。私はどこぞのお偉い貴族の末裔とは違う。私はたたき上げで公爵になった者だ。もともと、私は君と同じか、君以上に素行が悪いぞ」

 「ほう」

 「丁寧な言葉遣い、人としての誠実な振る舞いは、結局そのほうが都合がいいから身に付けた能力のようなものだ」

 「ふ~ん」


 あまりユスフは関心がなさそうに、ステージへと向き直った。


 「次、出てくるんちゃうん?あっちのチームのリーダーのあんちゃんが……!」


 そして身を乗り出して、ユスフはステージ下手を眺めた。


 「あっ、ホンマに……!?」


 ユスフの言葉を聞いたハウラも、少し身を乗り出して、ステージ下手側を眺めた。


 どうやら、ムハドが出てくることを期待しているようだ。

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