261 戦闘⑦/サーシャの咆哮

 ――ブンッ!!


 片目をやられたロアスパインリザードが激しく首を振り、サーシャを振り飛ばした。


 ――ザザザ……!


 サーシャはうまく受け身を取って砂上に降り立つと、すぐに長剣を構え直した。


 「サーシャさま……!?」


 突然のサーシャの攻撃に、護衛達は面食らった様子で、その光景を見ている。


 「はやく!」


 サーシャが再度、深手を負った護衛を馬車へ移送するよう促した。


 「は、はい!」


 護衛達が数人、深手を負った者達を介抱しながら、馬車のほうへと退却してゆく。


 ――シュ~!


 片目が見えなくなったロアスパインリザードが、サーシャへと迫る。


 「……」


 背後から気配を感じ、サーシャはチラッと後ろを見た。


 ここまで戦いに加わらず、周りを徘徊していたもう一体が、近づいてきていた。


 「くっ!」


 残った護衛達が、サーシャの後ろで陣形を整え、新手を迎え撃つ姿勢を取った。


 「あなた達も、馬車の近くへ!」

 「そんなこと、出来るわけがありません!!」


 サーシャの訴えを、護衛達は毅然として退けた。


 「私たちは、あなたの護衛なのです……!」

 「……」


 ――シュ~!!


 サーシャの目の前の、片目を失ったロアスパインリザードが動いた。


 尻尾が舞い、鱗が飛ぶ。


 だが、その鱗はサーシャの横を通過。片目を失い、狙いが定まっていないようだ。


 ……いける!


 優勢と判断したサーシャは前に出た。


 しかし、


 ――シャァ!!


 鋭い爪の引っ掻き、突き、牙の噛みつきの連続攻撃。


 先より相手の動きが、速い。目を突かれた痛みのせいか、むしろ戦意は増しているようだ。


 「……くっ!」


 サーシャは長剣で受け流しつつ、少し下がる。


 その時だった。


 ――シャァ!!


 もう一体、護衛と交戦していたはずのロアスパインリザードが、横から飛びかかってきた。


 その先に、護衛達が、倒れているのが、見えた。


 「……ぁあああ!!!!」


 サーシャの、叫びにも似た咆哮が響いた。


 ――パシッ!


 ロアスパインリザードの開いた口の、上の部分をとっさに掴んだ。


 そのまま腕の力だけで飛び上がり、噛みつきを回避。


 ――ザクッ!!


 ロアスパインリザードの脳天に、長剣を深々と突き刺した。


 ――ヒュゥ!


 「!」


 片目のロアスパインリザードから、鱗が飛んできた。


 狙いは、外れていない、突き刺した長剣を抜いている時間も、ない。


 「くっ!」


 サーシャは、目を閉じた。


 ――カキキィン!


 「……?」

 「よう、えっと……名前なんだっけ?あんた」


 サーシャは目を開けた。


 「まあ、いいや。あんた、強いんだな。お陰で、間に合ったぜ」


 キャラバンの一人が、サーシャの目の前、すんでのところで鱗を弾き飛ばしていた。


 「……あ、ありがとう」

 「おう。あっ、俺、ラクト、な」


 するとラクトは、サーシャの倒したロアスパインリザードの上に飛び乗った。


 「すげぇ、即死じゃねえか……最後の、大量の鱗を飛ばす暇も与えなかったのか」

 「護衛のみんなは!?」


 サーシャは護衛達を見た。


 「かなりやられてるが……なんとか、息はあるみたいだな」

 「あぁ、よかった……」

 「まだ、戦えるか?」

 「ええ」

 「よし」


 ラクトは、目の前の、片目のロアスパインリザードを見た。

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