260 戦闘⑥/護衛達と、サーシャ

 どこからか、わぁわぁと声が聞こえてくる。


 「んっ?」


 3体のロアスパインリザードと交戦しているリートが、チラッと声のするほうを見た。


 全体の半数ほどの護衛達が、一体のロアスパインリザードに立ち向かってゆくのが見える。


 「えちょ!ちょっと!?」


 ――シュ~!


 「マジっすか……」


 ロアスパインリザードの噛みつきや引っ掻き、鱗を飛ばす攻撃をことごとく避けながら、リートは困ったようにつぶやいた。


 「参ったなぁ。この3体倒したら、たぶん、形勢不利とみて退却してくれると思ったのに……」


 苦笑しながら、リートは矢筒に手を伸ばし、目の前の一体に弓矢を引いた。


     ※     ※     ※


 一体のロアスパインリザードに対して、護衛達は周りを取り囲んだ。


 「おりゃあ!!」


 護衛の一人が跳躍した。長剣でロアスパインリザードの側面を攻撃。


 ――シュ~!


 ロアスパインリザードは唸ると、胴体以上の長さのある尻尾を、くるっと回転。


 ――ブンッ!!


 そして、ものすごい勢いで、その尻尾は前に出た護衛に振り下ろされた。


 ――ガッ!!


 「さ、3人いれば……!!」

 「なんとか……!!」


 さらに2人の護衛が出てきて、先に出た護衛と一緒に尻尾の叩きつけを長剣で受け止めていた。


 「ぐっ!!」


 だが、3人とも、尻尾から飛び散った鱗を防ぐことはできず、肩や足に刺さっていた。


 「大丈夫か!?」

 「ああ!こんな鱗の一つや二つ!い、いまのうちに!!」


 尻尾を受け止めた護衛の声に呼応し、他の護衛が動いた。尻尾の攻撃によってガラ空きになった側面を突く。


 「おりゃああ!!」


 ――シュ!!


 と、ロアスパインリザードが、グィィッと身体をねじ曲げた。


 「なっ、なんだ!?」


 そして、その身体を解く。


 解いた反動で、ロアスパインリザードは勢いよく横向きに回転。


 ――バチィイン!!


 「ぐぁぁ……!」


 近づいた護衛に尻尾が横側から直撃した。


 深手を負い、護衛達がバタバタと倒れる。肩に、足に、鱗が突き刺さっていた。


 ――シァア!!


 ロアスパインリザードが、凶悪な口を開いた。


 「そ、そんな……」

 「こんなにいるのに……」

 「勝てないのか……」


 その時だった。


 「あ、あれ?俺の剣……?」


 後方にいた護衛の一人が気づいて言った。


 ――サッ!


 護衛でない何者かが、ものすごいスピードでロアスパインリザードのいる戦場の中央へと駆けてゆく。


 「な、なんだ!?」

 「キャラバンか!?」

 「いや、違う……!」


 黄色の水玉模様のスラッとしたドレス、長いストレートの金髪が、一瞬だけ視界に入ったと思うと、ロアスパインリザードに向かって高く飛び上がった。


 ――グサッ。


 サーシャが、ロアスパインリザードの片目に、護衛の長剣を突き刺していた。


 ――シャァ……!


 ロアスパインリザードがうめき声をあげた。


 「サーシャさま!?!?」

 「深手を負った者を、馬車へ!」


 サーシャが怒鳴った。

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