259 戦闘⑤/馬車の中で

 護衛の一人が、振り返って馬車を見た。


 「……」


 そして、ロアスパインリザードに向き直ると、唸るように言った。


 「……やってやる」


     ※     ※     ※


 馬車の中では、召し使いが心配そうに、身を乗り出して、外の戦いを眺めていた。


 対して、サーシャは無表情で、少し目線を下にしたまま、召し使いの向かいに座っていた。


 「あぁ、よかった……」


 一人のキャラバンが戦いに加わり、ロアスパインリザードに襲われていた手負いの護衛が救出されるのを見た召し使いが、安堵のため息をついた。


 「サーシャさま、なんとか、護衛のお方は助けられたようです」


 召し使いは、外へ目線を向けたまま、サーシャへ言った。


 「そう」


 召し使いの言葉に、サーシャは短く返事をした。


 と、外で、大きな火柱が立ち、ロアスパインリザードが倒れるのが見えた。


 さらに、そのキャラバンは3体を相手に激しく戦っている。


 「あの炎がちらついているキャラバンのお方、かなりお強いようですね……!」


 召し使いがサーシャを見ると、サーシャは無言でうなずいた。


 召し使いは、今度は、少し遠くで交戦している2人のキャラバンと2体のロアスパインリザードに目線を向けた。


 大きな大剣を持ったキャラバンのリーダーが、一体に強烈な一撃を加えている。


 「あちらのほうも、1体、倒せそうですわ!」


 召し使いが高揚した声で言った。


 さらにもう一人のキャラバンが跳躍、ダガーで頭部分を突き刺した。


 「や、やった!」


 と、ダガーを突き刺したキャラバンが素早く、ロアスパインリザードから離脱した。


 ――シャ~!


 その時、ダガーで頭を貫かれたロアスパインリザードが、馬車にも届いてくるほどの声で叫んだ。


 次の瞬間、大量の鱗が身体から四方八方に飛び散った。


 「最後の力を振り絞って、あんな攻撃を……」


 だが、キャラバン達はそれぞれ、大剣で身を守ったり、ダガーで飛んで来た鱗を弾き飛ばしたり、水の膜を張って、皆、鱗の攻撃を防いでいる。


 「すごい……!」


 召し使いはキャラバン達の戦いに見入っていた。


 「……戦いは」


 サーシャが口を開いた。


 「キャラバンに任せていれば、大丈夫」

 「たしかに、そうですね」

 「護衛達には、自分達の身を守るように」

 「サーシャさま、お分かりだったのですか?」

 「……」


 サーシャは無言になった。少し、言葉を探している。


 「……あの、ラピスの取り引きのとき……」

 「サーシャさま!護衛達が……!」

 「!」


 サーシャは立ち上がった。


 召し使いの目線の先。


 護衛達が、一体のロアスパインリザードに立ち向かっているのが、見えた。


 「……」


 サーシャもその光景を見た。


 そして、召し使いに言った。


 「靴を」

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