258 戦闘④/リートの戦い、護衛達の闘い

 ――ビュンッ!!


 リートが護衛のほうへ走ると同時に、弓矢を放った。


 ――ボゥ!


 「矢じりに火が!?」


 護衛達は驚いて、目の前を一瞬で通りすぎる矢じりに火の灯った矢を目で追った。


 ――ザクッ。


 ロアスパインリザードの後ろ左足のつけ根あたり、トゲとトゲの間にうまく突き刺さった。


 しかし、矢が突き刺さったことにまったく気づく気配がなく、ロアスパインリザードは手負いの護衛に襲いかかった。


 ――シャァ!!


 大きく口を開ける。ビッシリと生えた鋭利な牙が見えた。


 「ダメだ!矢一本じゃ動きを止められない!」

 「仕込んでた火も消えちまった!」

 「やられる!!」


 護衛達が叫ぶ。


 「大丈夫っすよ」


 リートが、護衛隊の前で立っていた。


 ――シャ……。


 手負いの護衛に触れるか触れないかの距離。ロアスパインリザードの動きが止まった。


 「内側から、逝かせてあげるっすよ」


 ――シュ……シュ……。


 口が閉じられる。ロアスパインリザードはもがき始めた。


 「いまのうちに彼を!」

 リートが言った。


 襲われていた手負いの護衛が救出される。


 「大丈夫か!?」

 「あ、あぁ……すまない」

 「よ、よし!」


 それを見届けると、もがき、のたうち回っているロアスパインリザードに目線を向けた。


 「そんじゃ、盛大に逝っちゃって」


 リートの赤い瞳と、エメラルドグリーンに輝くピアスがキラリと光った。


 ――シャ……!


 ロアスパインリザードが、天を仰いだ。


 同時に、口が、パカッと大きく開かれた。


 次の瞬間、


 ――ボォォオオオ!!!!


 ロアスパインリザードの口から、ものすごい勢いで炎が吐き出された。


 その炎は火柱となって、まるで火山の噴火のように吹き上がった。


 「口から炎が……!」

 「す、すげえ……!」


 やがて炎を吐き出したロアスパインリザードは、パタリと、力なく倒れた。


 「や、やった……!倒した!」

 「うおお!!」


 護衛達が歓声をあげた。


 ――ヒュゥ!


 「むっ!」


 鱗がリートに飛んで来る。


 「キャラバンの兄ちゃん!狙われてるぞ!」

 「大丈夫!そのまま、馬車と手負いの人ら、守っててください!とにかく、自分達が傷つかないように!」


 リートは鱗をかわしつつ、背中の矢筒から矢を一本取り出した。


 ――シュ~!


 ロアスパインリザードが3体、一気にリートに襲いかかった。


 「その間に、他も片付けるんで!」


 リートはメラメラと炎を纏いながら、護衛達の前で激しい戦いを繰り広げている。


 「……」


 また、少し遠くで、キャラバン2人が、2体に対して善戦している。


 「……」


 それをただ、護衛隊は見ていた。


 「く、くそっ!」

 「なにもできないのか……!」

 「こっちは50人もいるのに……!」

 「見ただろ……さっきの戦い。さっき負傷したアイツだって、護衛の中で強いほうだった。俺たちには、勝てない相手だ……」


 ――シュ~。


 すると、包囲網の軌道をゆっくりと歩き続けているロアスパインリザードの一体が、護衛達の横を通りすぎた。


 横目で、護衛隊を見ている。


 ――シュ~。


 どこか、戦っていない自分達を、見下し、嘲笑しているような目に、見えた。


 「ち、チクショウ……!」

 「な、なめやがって!!」

 「あ、アイツだけでも……!!」


 護衛達が、剣を、強く、握りしめた。

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