428 ウテナ⑪/光の中へ

 ウテナの意識が、遠くなる。


 「どうした?眠いか?」


 ラクトの声。


 少し、意識が戻った。


 「うん、ちょっと……」

 「寝てろよ。肩、かしといてやるから」

 「ううん」


 ラクトにもたれかかったまま、ウテナは首を振った。


 「あたし……もっと、ラクトと、話してたい……」

 「……フフッ、まあ、いいけどよ」


 ラクトが、困ったように笑う。


 「メロの国に戻ったら、みんなに、紹介するの……」

 「えっと、俺を?」

 「うん……あたしのこと、好きなんだって」

 「ちょ……おま……」

 「えへへ……なんちゃって」

 「参ったなぁ……」

 「……ラクト、ありがとう」


 ……生きるんだ。


 まどろむ意識の中、ウテナは思った。


 「んだよ、急に」

 「ラクト、ずっと、一緒にいようね」

 「ああ……」

 「ずっ……と……」

 「……」

 「……」


     ※     ※     ※


 「……んっ」


 ウテナは目を覚ました。


 「……」


 長椅子に横になっていた身体を、起こす。


 馬車は、止まっていた。


 ――パァァ……。


 馬車の出入り口の布は、上がっていて、外から、白い光が、馬車の中に降り注ぐ。


 「そんな……」


 外からの光で馬車の中は明るく、天井からつり下がった、マナ石のランプは消灯していた。


 「ずっと、一緒にって……」


 馬車の中には、ウテナ1人しか、いない。


 ラクトの姿が、なかった。


 「どうして……」

 「彼は、いなくなった訳ではない」


 光の中……馬車の出入り口から声がしたと思うと、運転士が、馬車の中に入ってきた。


 「彼は、この馬車を降りた」


 運転士は言いながら、ウテナの向かいの席に座った。


 「ラクトはど、どこに!?」

 「この白い光の先……砂漠とは打って変わった、草花豊かな土地を、彼は一人で、歩いている」

 「……」

 「やがて、6つの生命の扉の設けられた遺跡に、到着するだろう」

 「6つの生命の扉……」

 「一応、言っておく。彼は、お嬢ちゃんを巻き添えすることを、望んでいない。しかし、彼を追いかければ、その運命を共にすることと、なるだろう」

 「……」

 「だからこそ、彼は決別を選んだのだ」

 「……あたしは、」


 ウテナは、いつの間にか流れていた涙を、拭いた。


 そして、運転士を見据えながら、凛とした眼差しで、言った。


 「あたしは、もう、迷わない。生きるって、決めたんです」

 「……その決意があれば、あるいは……か」


 運転士が、馬車の出入り口を、指差した。


 「光の、中へ。じきに視界は戻る。そこで、彼の生命の扉を開けるのだ」

 「運転士さん、ありがとう……!」


 ――パァァ……!


 運転士に礼を言い終わる頃には、もう、ウテナは馬車の外に飛び出していた。


 白い光に、包まれる。


 「ラクト……!」


 眩しさで、ウテナは目をつむった。

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