429 ウテナ⑫/光の先、とある川を越え

 光の先へ。ひたすら、前へ……。


 ――ァァ……。


 次第に、光が収まってゆく。


 視界が戻り、周りの景色が見える頃には、ウテナはもうすでに駆け出していた。


 辺り一面、腰より少し上くらいの草の上に、色とりどりの花が咲く。


 緑色の細い茎に、それぞれ、小さな黄色い花びらをたくさんつけたものや、淡い紫の、縦に細い花びらをつけたもの、橙の大きな花びらを段々につけたものなど……。


 まさに、百花繚乱……それぞれが、それぞれの持ち味を活かして、緑のステージの上で、調和しながらも、色とかたちを競い合っている。


 「……」


 しかし、いまのウテナには、そんな草花の、彩り豊かな景色の美しさを愛でる余裕も、ほのかに漂っているゆかしい香りを楽しむゆとりも、砂漠からなぜ、このような美しい花畑に変わったのかということについて考える暇もなかった。


 ――ザザザザ……!


 ただただ、ウテナは駆けていた。


 ラクトがどこを歩いていったのか、それは、分かった。


 踏み倒されてまだ間もない草花が、自然、道をつくってくれていた。


 「……小さな川だわ」


 走っていると、目の前に、小さな清流が。


 その先に、ラクトの足跡であろう、草花の踏み倒された道しるべが続いているのが見えた。


 『行ってはだ……』


 ――タンッ!


 ウテナは跳躍。その川を、一気に飛び越えた。


 「……なんか、声が……?」


 着地した後、ウテナは振り返り、川のほうを見た。


 「……」


 誰もいない。だが、たしかに誰かが、川を飛び越える一瞬前に、声をかけられた気がした。


 それに、声は頭に直接届いていたようにも思える。


 「誰だか分からないけど、ごめんね、急いでるの」


 言い残して、ウテナは再び駆け出す。


 ……だんだん、周りが繁ってきたわ。


 草の背が高くなる。


 また、メロの巨木ほどではないが、緑の葉っぱをつけた木々が、多くなってきた。


 木々の間を避けながら、どんどん、前へ。


 そんな時、


 「!」


 目の前に、大きな木。


 「あぁ……」


 その木を見たウテナはため息した。感動のため息だった。


 そこ一帯、包み込むかと思われるほどに、その木は、長く枝を伸ばしていた。


 その枝についている、ごくごく小さな、無数についた、淡いピンクの花びら。


 ひらひらと、その花びらが、舞い散る。


 「……」


 ――ザッ!


 しかし、そんな美しい光景も、一瞬の感動だけを胸に納め、ウテナは再び駆け出した。


 そのしだれ枝の、小さな花びらを無数に降らす大きな木を横切る。


 木々が、さらに生い茂る。


 ……いる。なんとなく、分かる。気配を感じる……!


 ウテナが思ったときだった。


 「!」


 開かれた場所に出た。


 「ラクト!」

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