430 ウテナ、内なる戦い①

 石でつくられた、アーチ状の大きな扉が6つ。向かい合い、円を描くかたちで建てられている。


 扉はどれも、長く利用された痕跡がなく、蔦が絡み付いていて、堅く閉ざされている。


 そんな6つの扉の中央に、一人、ぽつねんと座る青年……ラクトが、振り向いた。


 「マジか……!」


 ラクトは驚いた表情でウテナを見ると、立ち上がった。 


 「ウテナ、来ちまったのかぁ」

 「もう、一人で勝手に行くなんて、ありえないんだけど……!」


 ウテナは言いながら、ラクトのもとへ。


 「よかったわ、追い付けて」


 ――ギュッッ!


 ラクトの右手を、ウテナの右手がしっかりと握る。


 「これでもう、大丈夫」

 「……」

 「さっ、戻ろう?」

 「ウテナ、もう、ここがどういうところか、分かってんだろ?」

 「ええ、なんとなくだけどね」

 「ウテナ、悪いけど、俺は……」

 「ラクトがあたしを死なせてくれなかったように、今度は、あたしがラクトを死なせない」

 「……んなこと言ったって、どうすんだ?」

 「……こうすんの!」


 ――ブチ!ブチ!


 ウテナはラクトの手を掴んだまま、6つの扉のうちの一つに近づいて、その扉に絡み付いている蔦を引きちぎり始めた。


 ――ブチブチッ!


 「お、お前、まさか生命の扉、開けるつもりなのか……!?」

 「開けるわ!それでラクトの命を留めておけると思うから!」

 「なんで、お前、そんなに抗えるんだよ……」

 「言ったでしょ!?ずっと、一緒にいようねって!」

 「ウテナ……」


 ――ブチブチ、ブチッ!


 あらかた、扉に絡み付いている蔦を引きちぎった。


 「よし!」


 ウテナが左の扉の取っ手を、左手で掴んだ。


 ――ググッ。


 扉を開けようと、力を込める。


 そのとき、


 ――ピピピピ……。


 ウテナの左腕の、至るところに線が入った。


 「……えっ?」


 ――ビキビキビキ……!


 左腕の皮と肉が裂ける。血しぶきが飛び散った。


 「あぁぁ!!」


 ウテナは叫んだ。


 ……こ、これは!!


 自分でつけた傷。自分の、自分で裂き続けた左腕。


 ――ビキビキ……!


 「うぁぁ……!!」


 痛みで、顔が歪む。


 力を入れようとすると、血しぶきとともに、まるで左腕の至るところから紅の華が咲くように、裂けた肉が盛り上がって飛び出そうになる。


 ……痛い、辛い、苦しい。……でも!!


 「ウテナ!!」


 ラクトが叫んだ。


 「もう辞めろ!!」

 「い、いや!これで……いいの!!」

 「なに!?」

 「向こうの世界で生きてゆくために、ここまで来たんだもの!!」

 「……」

 「あたし、生きるよ!!」


 ――ガシッ!


 ラクトが、右の扉の取っ手を掴んだ。


 「!」


 ――プッシュァアア……!!


 ラクトの左腕、左肩から、大量の血が吹き出た。


 「ぐぅぅ……!」

 「ラクト!!」

 「構わねえ!!クッソ重いぜこの扉!!ウテナは左を頼む!!俺は右!!両手でこじ開けるぞ!!」

 「うん!!」


 ――ギィィイイイ……!!


 扉が、ゆっくりと動き始めた。

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