427 ウテナ⑩/思い
――ガラガラガラ……。
ウテナとラクトの2人を乗せて、馬車は進んでいた。
「そういえば、あの兄妹2人の名前、聞くの忘れたな」
ラクトが言った。
「うん……」
ウテナは、少しうつむきがちに、返事した。
いまは、ラクトはウテナの隣に座っている。さっきまで兄妹が座っていた長椅子は、空席となっていた。
「てか、外って、どうなってんだろ……」
ラクトは立ち上がり、馬車の布をまくり上げた。
「……いや、やっぱ、そうだよなぁ~」
まくり上げた布の外に広がっているのは、やはり、砂漠。そして、夜の星空。
「もうちょっと、早く合流できていれば、あの2人も、オアシスで、ヤスリブボタル見れたり、魚、食べれたのにな~」
外の、夜の砂漠の景色を見ながら、ウテナに向けてのような、独り言のような、そんな調子でラクトは言った。
「うん……」
「まあでも、お母ちゃんに会えたんなら、それはそれで、よかったのかな~」
ラクトは布を下げ、ウテナの向かいの、兄妹が座っていた長椅子に座ろうとした。
「あっ、ラクト」
「んっ?」
「その……他に、乗ってくる人が、いるかもだし」
「あぁ……それも、そうか」
ラクトは再び、ウテナの隣に座った。
2人とも、馬車の進行方向を向いている。
「……」
「……」
しばし、無言になった。
……ラクト。
光の中、消えゆく2人を見送るとき、ウテナはチラッと、ラクトを見ていた。
なぜまばゆい白い光が馬車の外から……と、ウテナは動揺を隠せずにいたが、ラクトには、微塵も、動揺は感じられなかった。
まるで、いずれ自分もそうなることが分かっているかのように、その運命を、受け入れているようで……。
《ただひとつ、心残りなのは……》
《わたし、寂しくないよ!》
――ギュッ。
ウテナの右手が、ラクトの左手を握った。
「……ウテナ?」
「あたし達、ずっと、一緒にいようね」
ウテナは言った。
「どうしたんだよ、急に」
ラクトが応えた。
ラクトがいま、どんな顔をしているのか……ウテナは、横に向いて確認したかった。
「あたしね……」
だが、ウテナは、前を向いたまま、ラクトと、同じ方向を見ながら、続けた。
「あたし……もう、大丈夫。大丈夫だから」
「そうか……」
「それでね、運転士さんが、言ってたの。あたしはじきに戻れるって」
「おう」
「この手、離さないから。そしたら、ラクトも一緒に、戻れるでしょ?戻れるよね?」
「……」
ラクトは答えない。無言のままだ。
――ギュッ。
だが、ラクトの左手は、ウテナの右手を、強く、握り返していた。
「あたたかい……」
――トン……。
手を握ったまま、ウテナは、ラクトにもたれかかった。
「……」
ラクトに触れ、そのあたたかさに、安心してしまったのだろうか……まぶたが、少し、重くなる。
心地よい、眠気。
「……フフっ」
すると、ラクトが微笑んだ。
「アクス王国の料亭の時みたいだな」
「えっ?」
「覚えてないか?」
「うん……」
「あの時、ウテナ、酔ってたからなぁ」
「そう……だっけ……」
「いやまあ、別にいいんだけどよ」
「ラクト、ずっと、一緒に、いようね……」
「分かってる」
「ずっと、いっ……しょに……」
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