454 岩石の村のプチブーム、サーシャの叫び

 「つくりきる、意志っすか」


 リートが繰り返した。相変わらず、イスを左右に揺らしている。


 「はい。私のアトリエで過ごしたあの数日間だけは、彼らは立派なアーティストでしたよ」


 シュミットはうなずき、言葉を次いだ。


 「それに、サーシャさまは写実的な絵が得意ですが、イラストのような抽象的なものが得意な人もおります」

 「才能っつっても、いろいろあるんすね」

 「そうなんです。……その証拠が、」


 すると、シュミットは懐に手をやった。


 ――トン。


 テーブルの上に、小さな木の彫刻が置かれる。


 ――ッタン。


 リートの揺れが止まった。


 「な、なんすか、この、不気味な生命体は……」

 そして、若干、引き気味に言った。


 カメレオンのような、ギョロっとした目が不気味な顔。胴体からは、腕のようなものが3本出ている。足のようなものも3本あって、安定して立っている。


 「ちょっと、これ、いま、プチブームなんですよ」

 「こ、これが?」

 「そのきっかけは、ラクトさんなんです」

 「へっ!?」

 「実は、ラクトさんのつくった彫刻なんですが、私のアトリエに足を運んだ方が、結構、興味深くご覧になってゆく方が多くてですね……」

 「あ、あれを……?」

 「ええ。なんといびつな形をしているのだと、逆に新しいと、真似て作り出す人が増えてきましてですね。今では、子供たちの間で、ラクトさんの作品と似たような作品を、競ってつくり合っていますよ」

 「う、ウソだろ……」


 ケントが唖然として言った。


 「案外、ラクトさん、絵画だと、有名な画伯になるかも……」

 「シュミットさ~ん……!」


 顔を真っ赤にした召し使いが、ベランダから戻ってきた。


 「!?」


 かなり激おこな雰囲気を醸し出しながら、シュミットに迫る。


 「ど、どうされたのですか?」

 「どうしたもこうしたもありませんわ!あなたって人は……あなたって人はぁ!」

 「えっ!?ちょ、ちょちょちょ!?」


 ――あぁ!!


 「!?」


 控え室まで聞こえる、サーシャの叫び声。


 「えっ!?」

 「サーシャの声……!?」

 「サーシャさま!!」


 召し使いが控え室を飛び出した。


 「ど、どうしたんだ!?」

 「とにかく、公爵長の書斎に!」


 他のメンバーもすぐに控え室を出て、イヴンの書斎へと駆け足で向かう。


 ――バンッ!


 書斎の扉を、召し使いが勢いよく開けた。


 「サーシャさま!?」


 サーシャが、マナトに抱えられていた。


 「……大丈夫、気を失っているだけです」

 「い、今の、サーシャさまの叫び声は!?」

 「……」


 マナト、また、イヴンも、サーシャの描いた絵画に、視線を注いだ。


 「この絵画の正体は……」


 そして、マナトは下を向いて、抱えたサーシャを見つめながら、言った。


 「サーシャさんが、転生前、死に際に見た光景だったようです……」

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