479 アブド、定例の中央会議にて

 参加している公爵は、20人弱。


 メロの国におけるなにがしかを司る公爵たちが一同に会した、定例の、中央会議。


 「では最後に……」


 司会役の公爵が立ち、議題を読み上げる。


 会議ではこれまで、メロの国益について、国防について、外交についてなどなど……長々と、粛々と続いていたが、ようやく、最後のひとつの懸案を残すのみとなっていた。


 その懸案とは、目下の国難について……すなわち、ジンへの対処である。


 議題を読み上げた公爵が、席に座った。


 アブドは立ち上がった。


 「ムスタファ公爵から、事前に資料のほうを受け取っております。私が、代わりに報告いたします」


 公爵たちは皆、うなずいた。


 「え~、まず、いくつかの居住区における混乱について……」


 アブドは書類に目を落とし、読み上げてゆく。


 居住区における混乱……つまり、ジンが出現したということによる、不信や恐怖、誤った正義感のために起こる、住民同士が衝突する現象。


 大国でジンの存在が確認されたとき、まず起きる現象がそれだった。


 これまでに、国内全体で、十件ほど、確認されている。


 「どれも、駆けつけた護衛により、沈静化に成功しております」


 ここで、アブドは国防を担う公爵に向かって、合掌。


 その功績を称えた。


 相手の公爵も、合掌で返す。


 「え~、しかし、諜報らの調査によると、実際にジンが出現したという情報は、住民の証言を聞く限り、信憑性に欠けるものが多く……」


 アブドはさっさと読み進めてゆく。


 このあたりは、他の公爵たちも周知の事実であり、イスの背もたれに身を預け、聞き流している様子だった。


 「……で、先日の、ジンの諜報員本部襲撃事件についてですが、」

 「……」


 ――ガタガタ……。


 さっきまで、イスの背もたれに身体を預けていた公爵たちが、皆、身体を起こした。


 そして、配布されている書類を持つ。


 ここからが、本番ということを、物語っていた。


 「現在、滞在しているキャラバン一行の一人に化けたジンは、同じ仲間であるキャラバンをそそのかし……」


 そんな中、アブドはこれまでと変わらず、一連の事件について、淡々と読み上げてゆく。


 「ジンと交戦した諜報部隊は皆、一命はとりとめたものの、全滅の憂き目に会い……」

 「なんと……」

 「あの、諜報部隊が手も足も……」

 「やはり、化け物か……」


 アブドの報告に、にわかに、周囲がざわつく。


 「……」


 ざわつきが止むのを、アブドは待ち、続けた。


 「え~、また、天廊における状況としては、ムスタファ公爵と連れ去られたキャラバンの仲間たちが駆けつける前に、ジンとその者たちとの間で、こんなやり取りが……」


 そして、アブドは、確信部分である点に触れた。


 「つまり、それ以前のジンの動きも踏まえて、ジンの目的が、現時点でウテナという女性の排除である可能性が、極めて高いことが、考えられます」


 アブドは報告を終えると、座った。


 公爵たちで、意見交換が、始まる。


 ……さて、ここからだ。


 アブドの目は、研ぎ澄まされていた。

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