478 皆の去った後、ルナ、自室にて

 ――バタッ。


 公宮の玄関の扉が開く。


 ルナの父親であるムスタファ公爵が、大股で外門のほうへと歩いてゆく。


 その後ろから、執事の兄が駆け足で、ムスタファを追い越し、先に門を出た。


 「ルナ!」


 ムスタファがこちらへと向き、言った。


 「私は宮殿へ行ってくる!少しだが、会議に参加できそうなのでな!」

 「はい!」

 「マナトくん!」


 ムスタファは、ルナの隣にいる、マナトにも声をかけた。


 「また後日!」

 「分かりました!」


 マナトは合掌し、一礼した。


 外で、兄が馬車を止めていた。ムスタファが乗り込む。


 ――ガラガラガラ……!


 あっという間に、ムスタファを乗せた馬車は、行ってしまった。


 「あっ、お~い!マナトぉ~!」


 開いた玄関から、今度は、ミトとケントが出てきた。


 「そろそろ、帰るよ~!」

 「いま、リートさんと、岩石の村で、報酬を受け取ってるところだ~!」


 マナトは2人に手を振った。


 「分かりました~!」


 そして、ルナに言った。


 「戻りましょうか」


     ※     ※     ※


 岩石の村とキャラバンの一行の去った後、ルナは自室に戻っていた。


 ルナは、化粧台に座っていた。


 「……」


 化粧台の鏡に、自分の顔が、映っている。


 その顔は、……いや、身体全体、かっかと火照っていた。今日の夜は、眠れそうにない。


 一睡も、したくなかった。


 「……」


 着替えもしないで、ただ座ったっきり、化粧台の上に置いているネックレスなどのアクセサリーを、ひとつずついじったり、自ら結い上げた茶色い髪の毛をほどいたり、また結い上げたり、そして、またほどいてと、繰り返していた。


 「はぁ……」


 ため息。


 先の、再会の余韻に、浸っていた。


 「……そうだわ」


 その後、ルナは紙を一枚、持ってきた。


 「……」


 手紙を、書き始めた。


 帰り際、ルナはマナト達が泊まっている下宿先の住所を聞いていた。


 ……マナトさん、どれくらい、ヤスリブ文字を覚えられましたか?


 ……いえ、マナトさん、頭いいですものね。きっと、もう、マスターしてしまっていることでしょう。


 ……いつまで、このメロの国に、いらっしゃるんでしょうか。


 胸のなかで、さまざまにうずまく声を、なんとか、まとめあげようと、ルナは苦心していた。


 ……でも。


 マナトは、異世界から来た。どうやって来たかも、帰り方も、分かっていないらしい。


 しかし、もし、何らかのかたちで、帰る方法が見つかったとしたら。


 ……いつかは、帰ってしまうのでしょうか。もといた世界に。


 「……」


 それを考えると、たちまち、体内を心地よく駆け巡っていた血の流れは、突如として凍って止まってしまったようだった。


 「……」


 しかしまた、先の再会の喜びが、よみがえると、血の流れは一気に、ルナの中を駆け巡る。


 「あぁ、ウテナと話、したいなぁ。……来ないかなぁ」


 自室に一人、ルナは言った。たくさん話したいことが、ある。


 「でも、ウテナ、重傷負って……」


 その時だった。


 ――カツゥン。


 ルナの自室の窓に、なにかが当たる音がした。


 「ん?……あっ!!」


 窓を開け、下を見ると、ウテナが下で、手を振っていた。


 「やっほ~!」

 「ウテナ!!」

 「久しぶり~!」

 「ちょうど会いたいと思ってたの~!!」

 「あたしも~!」


 ルナは自室を出て、ウテナを迎えに行った。


     ※     ※     ※


 宮殿内の一室で、アブドは定例の、中央会議に参加していた。

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