128 リート②

 「そういえば、ぜ~んぜん書庫に入ってなかったな。……どうせ散らかってんだろうなぁ」


 リートはブツブツとぼやきながら、書庫に入った。


 「……思った以上に散らかってないな?」


 不思議に思いつつ、書庫の奥へと向かう。


 「ここに入るのなんて、僕か長老か、ステラくらいのはずっすけど……おっ?」


 書庫の奥にある机の上には、広げられた木片の書簡と、それを書き写したであろう紙が置かれていた。


 リートはその紙を手に取った。


 「長老の字でも、ステラの字でもないぞ……んっ?」


 ふと本棚の上を見ると、書き終えたと思われる木片の書簡がいくつか置かれている。その下には、端をヒモで結んだ紙の束が、すっきりと本棚に収まっている。


 リートは紙の束を手に取った。


 ――ペラペラペラ……。


 「ほえ~」


 やはり誰かが、木片の書簡の書き写し作業を、リートが交易に行っている間にやってくれていたらしい。


 キレイにまとめられていて、リートはほとほと関心してしまった。


 紙束を持ったリートは書庫を出て、早足で長老のいる居間に戻った。


 「長老~」

 「なんじゃ~?」


 長老は振り返らず、言葉だけ返して作業し続けていた。


 「どうやら留守の間に、俺に代わって誰か、木片書簡の書き写ししてくれたみたいっすね」

 「あぁ、それは……」


 長老が振り向いた。


 「マナトというヤツがいてのぉ。最近、この村にやってきたんじゃが、そいつがやってくれたんじゃ」

 「マナト……」


 名前を聞いても、リートはあまりピンとこなかった。


 すると、長老が続けて言った。


 「お主と同じ、能力者じゃぞ」

 「あっ、そうなんすね。体内にマナ取り込めたんすか」

 「そうじゃ。マナの洞窟で人魚の主にマナの源泉を注いでもらい、マナトは水を操る能力を得た」

 「それはすごい。十の生命の扉を開いたということっすね」

 「うむ」


 長老はもう、完全にリートのほうを向いていた。


 「あっ、そうじゃ。ちなみにウームーの風のマナに関して、何か分かったことはあるかの?」

 「長老、忙しいんじゃなかったんすか?」

 「とりあえず、峠は越えたから大丈夫じゃ」


 長老はテーブルの上の封書を手に持って、ひらひらと揺らした。


 「あぁ、そうっすか……よいしょっと」


 リートは居間に入って、長老と向かい合う形で、足を組んで座った。


 「というか、そもそもお主らが、ラクダ達をあんなに連れ帰って来るから……」

 「あっ!それ、俺は反対したんすよ!長老、ぜっったい怒るって」


 長老の言葉に、リートは慌てて弁明した。


 「まあ、仕方ないわい。もう手は打った」

 「おつで~す」

 「相変わらず、お主は軽いのう」


 長老が苦笑した。


 「ちなみに長老、ウームーのマナ、どう思います?」

 「超便利じゃな。特に、あの箱船は」

 「ですよね~」

 「可能なら、今後も活用したいところじゃ」

 「そっすよね~」


 リートは言うと、その黒の中に朱色がチラつくパーマ髪をクリクリ回し始めた。


 「やっぱ、誰かがウームーのマナ取り込むしかないっすね~」

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