230 論功行賞③/公爵アブド

 ……あの公爵は。


 フェンと同じく、フィオナも、前で話すアブドに注目した。


 メロの最高地位である、公爵。


 現在、公爵の地位についている者は十数人ほどで、目の前に座している公爵達をざっと見る限り、老練な人物が多い。


 そんな中でも、アブドは若くして公爵の任に就いていた。若いといっても、中年ほどの歳ではあるが。


 そして、このメロの国において、キャラバン優遇政策を積極的に推し進める一人でもある。


 いわゆる、キャラバンびいきの公爵の一人であり、その筆頭だった。


 この人物が、キャラバンを一躍、メロの国内における人気職業へと押し上げたといっていい。


 そんな公爵アブドが、両手を掲げた。


 座せよ、の合図。


 フィオナ、また他の者達も、両膝を折って、つま先を立て、お尻は地面につけずに4点座りし、背筋を伸ばした。これが、メロの国における座する、だ。


 座するのを見届けたアブドは、周りに笑顔を向けた。


 「皆さま、彼らが今回の功労者でございます。惜しみ無い拍手を!」


 ――ザァ~!


 再び、拍手の雨が降り注ぐ。


 「この度は、護衛隊と共に戦った、キャラバンの面々達も参列しており……」


 アブドは聞き心地のよいテンポで、流暢に話している。


 「護衛隊と共にっていうか、俺たちがワイルドグリぶっ……!」


 オルハンがボソッと言いかけたのを、ライラがチョップした。


 ……なるほど。


 話を聞きながら、フィオナは思った。


 暗にキャラバン達の功績を称えることで、アブドは推し進める政策の正当性のアピールをしているのだと。


 「また、いつも護衛の諸君には、昼となく夜となく……」


 そんな中でも、アブドは決して、護衛達のことを悪く言いはしなかった。


 この祭典がある程度、護衛のためにあるというところも、アブドはわきまえている様子だった。


 アブドが話を続ける中、ウテナは参列者のほうに目線を向けていた。


 ……ルナは、参加してるのかしら。


 ルナの父はすぐに見つけることができた。


 公爵枠の席に参列しており、ルナと同じ青い瞳、黄一色のクーフィーヤを被った、中年ほどの男性。


 アブドと同じく、公爵にしては若いほうで、見つけやすかった。


 だが、その父の側には、ルナはいないようであった。


 ……でも、どこからか、なんとなく、視線を感じる。


 ウテナは顔の向きは変えず、目だけキョロキョロした。


 ……たしか、目線はこっちから。


 「!」


 正面向かって右側、諸外国の有識者が参列する奥に、ルナを見つけた。


 ルナもウテナを見ていた。ルナが、微かに笑顔になる。


 ウテナも、小さく微笑んだ。


 ……あとで、話したいことが。

 ルナが目線で語りかけてきた。


 ……うん。

 ウテナは小さくうなずいた。


 女性陣のほとんどがドレスで着飾っている中、ルナは男性と同じような白装束を着ていたため、分からなくなっていた。


 ……ルナ。


 彼女が白装束を着ている理由は、ウテナにはすぐ分かった。


 痩せ細りすぎて、身体のラインが分かってしまうドレスのような服を、いまは、着用できないということを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る