79 出国②

 王国の門を出て少し進むと、護衛団の一団が目に入ってきた。


 皆、馬に乗り、銀色の甲冑をつけている。


 「おう、行くのか」


 茶色い毛並みの、一際大きな馬にまたがった、マナト達がこの王国に着いた際、血の確認を要求してきた護衛隊長が、ケントに声をかけてきた。


 「ああ。悪いが、今の状況を利用させてもらうぜ。俺たちも、交易品を村に持ち帰らないといけないんでな」

 「当然、大いに利用してくれよ。護衛には護衛の、キャラバンにはキャラバンの、それぞれの使命ってもんがあるさ。……正直、ジンが出現してくれて、隊長の俺としては、いい面もあると思ってるんだ」

 「……ほう?」


 ケントは護衛隊長を見つめた。


 「平和なのはいいことだ。だけどその分、俺たちの存在価値が問われる」

 「……まあな」

 「護衛って、割と呪われた職業だと思うぜ」

 「……」

 「わりい。こんな大変なときに、愚痴っちまったぜ。じゃあな!」

 「おう!」


 ――ピシッ!


 ムチを打つ。馬が走り出す。


 「行くぞ、お前ら!」


 護衛団の騎馬隊は、隊長を先頭に、前線基地へ向かって走り去っていった。


 ちなみに馬はラクダより速く移動できるが、砂漠を長時間移動するのには向いておらず、その上荷物を運ぶとなると疲れやすく、またエサもラクダより頻繁に与えないといけないため、行商の際は、やはり馬より、ラクダのほうが適していた。


 商隊は王国から離れ、だんだん草木も減っていき、砂の世界へと入ってきていた。


 ひたすら、西のサライへと歩き続ける。


 先頭はケントとフィオナ、中間あたりには、ラクトとウテナが並んで歩いていた。


 「あっ、この岩……」


 ウテナが、右手にある大きな岩を指差した。


 「見覚えあるわ」

 「確かに。行きの時にも通ったな、ここ」


 ラクトもうなずいた。


 これまで歩いてきたルートをそのまま戻るというだけあって、岩にも草木にも、どこか見覚えがあった。


 マナトはミトとルナと一緒に、隊の後方を歩いていた。


 「マナト、水壺、補充したの?」

 「うん」


 マナトはマントの下から、腰につけていた水壺を取り出した。


 予備も補充して、ラクダの荷に取り付けてある。


 「マナトさん、もう一度、水を操るところを、見せてくれませんか?」


 ルナが、真剣な表情で言った。


 「いいですよ」


 水壺から細い水流が出てきて、マナトの手の平の上で小さな水の玉が出来上がった。


 「……」


 食い入るように、ルナは水を見つめていた。その光景を、目に焼き付けているようだった。


 ふとマナトは、周りを見渡した。


 ……あっ、もう、ここか。


 アクス王国と西のサライは近い。もう少し歩けば、西のサライが見えてくるところまで、商隊は来ていた。

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