525 ムハドの目的/くじ引き

 「……はぇ?!」

 「もう、負けてもって……」


 ムハドの発言を聞いて、ラクト、ミトをはじめ、皆、力が抜けたように声を漏らした。


 「あはは!まあ聞けよ」


 ムハドが快活に笑いながら、説明を加えた。


 「昨晩、俺は、アブド公爵に会ってきたんだ」

 「アブド公爵……?」


 マナトは首をかしげた。


 「サロン対抗戦の予選で、諜報部隊の乱入してきた時、ムスタファ公爵に続いて客席から出てきた公爵だ。さっきも、途中でステージに上がってきて、執事に血の確認させていた公爵が、いただろ?」

 「あぁ、はい、分かります」

 「そもそも、今回、俺が来た目的の一つとして、俺とある公爵との、対話だった」

 「その、ある公爵というのが、アブド公爵と」

 「ああ」


 ムハドはうなずいた。


 「マナトくん」


 すると、セラが出てきてムハドの隣に立ち、マナトを見ながら言った。


 「前回のサロン対抗戦の予選で、マナトが巻き込まれて場外乱闘に発展したでしょ?」

 「はい」

 「あの時、私たちは、偶然、少し接触することに成功していたの」

 「えっ、あっ、そうだったんですか」

 「サロン対抗戦に参加することで、機会を伺っていたのだけれど、早くにカタがついたわ。あの場外乱闘で、マナトくん、あなたが目立ってくれたおかげなのよ」

 「そ、そうだったんですかぁ……!」

 「ウフフっ、もちろん、あんなことになるなんて、思いもよらなかったけどね。でも、うまく公爵と既知になることができたわ」


 ……あの場外乱闘、意味あったんすか!?

 マナトは思った。


 「なもんで、もう、決勝トーナメントは、フリー!今日の戦いは、お前ら、好きにやっていいぜ~」

 「じゃ、じゃあ俺が……!」

 「ダメだってば……!」

 「ちょ、サーシャお前……!」


 ラクトが挙手しようとしているのを、サーシャがラクトの手を掴んで止めている。


 「……」


 ……端から見れば、イチャついてる2人に見えなくも、ない。


 マナトが思った矢先、


 ……な、なんか寒気が……。


 どこからか、殺意のこもった視線を感じた。


 少し見渡せば、その者を見ることはできるだろう。


 ……いや、やめておこう。


 代わりに、マナトは相手チーム、アイーダサロンのほうを眺めた。


 時おり、コチラのほうをチラチラと見ながら、作戦会議をやっているようだ。


 「僕も!」


 と、ミトが手をあげた。


 「いや、俺がいく!」

 「いや、私が!」


 さらに、他の血気盛んなメンバーも、挙手。


 ……ぼ、僕も……いや、どうしようかな……。


 マナトはしどろもどろしていた。


 「んん~、どうしようかねぇ」


 すると、ジェラードが、着ている白装束のポケットから細い枝を複数本取り出した。


 枝の端を見えないようにして掴み、前に差し出した。


 くじ引きだ。


 「複数の場合は、やっぱりこれだよねぇ。赤い着色が端に塗ってあるのが当たりだ。はい、ステージに立ちたいヤツは、手を出しな~」

 「よし!これ!」

 「私はこれ!」


 皆、それぞれつまんでいく。


 「……あれ?マナトも?」

 「い、いやぁ……らしくないんだけど、ちょっと、ね」


 ミトの横で、マナトも、枝の一本をつまんでいた。


 「よし、手、離すぞ……それ!」

 「てぇぇええい!」

 「あっ!ラクトったら……!」


 ジェラードが手を離してみんながくじを引く瞬間、サーシャを振り切って、ラクトもギリギリ、枝を掴んだ。

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