526 くじ引き結果

 皆、自分がつまみあげたくじ引きの細い枝の端を凝視した。


 「……」

 「……違う」

 「違うなぁ」


 皆が、残念そうに声を漏らしてゆく。


 「違ったぁ」

 ミトが、着色されていない枝をぶらぶらと降らした。


 「違ぇ……」

 ラクトが、下を向いて肩を落とした。


 「……あなたが当たったら、私がいくことにするからね、ラクト」

 サーシャが言った。


 ……残念。


 マナトも、外れくじだった。


 「……えっ?それじゃ、誰?」

 「みんな、外れじゃないの?」

 「……あっ」


 ちょうど、一本だけ残った細い枝が、ジェラードの手に引っ掛かっている。端には、赤い塗装。


 「ははは……まさか?」


 当人のジェラードが、引き気味に苦笑している。


 「おいおいおい、誰か、取ってくれよぉぉ」

 「クク……じゃあ、」


 くじ引きの光景をニヤニヤしながら見ていたムハドが、言った。


 「ジェラードで」

 「参ったねぇ。どんどん、若くて青い力が芽吹いてきてるんだ。そいつらの力をみてみたいと、ムハドも思うだろう?戦いは、若い青年たちに任せようって、思ってたんだがねぇ」

 「なに言ってんだ。30っていやあ、まだまだ青年の年齢だろう。というか、ジェラードは、たぶん、何年になっても青年だろうから、安心しろよ」

 「えぇ……?ムハド、それ励ましてるつもりかい?」

 「当たり前だろ?それに、たまにはみんなの前で戦う姿、見せてもいいじゃねえか」

 「へいへい。……行くつもり、なかったんだがなぁ」


 ジェラードは困り顔で笑いながら、ステージへと続く階段を上ってゆく。


 「あっ、そうだ」


 階段の途中で、ジェラードは振り返った。


 「誰か、鍼灸用の針、持ってないか?本当に戦うつもりがなかったから、武器を持ってないんだよ」

 「あっ、持ってますよ」


 一人がジェラードに、鍼灸用の針を渡した。


 「ありがとう」

 「……てか、ジェラードさん、ダガーとか、持たなくていいんですか?」

 「大丈夫だ、問題ない」


 相手の、アイーダサロンのメンバーは、すでにステージの上に立っていた。


 「それじゃ、3分以内に、2人目のステージに出るヤツをテキトーに決めといてくれ!」


 ジェラードも、渡された鍼灸用の針を持って、ステージへ。


 「……!」


 近くでジェラードの戦いを見ようと、ラクト、また、ミトなど、数人がステージ下手側の脇に駆け寄った。


 ケントも前に出て来ていて、マナトの隣に立っていた。


 「ジェラードさんが、1対1で戦うの、ほんっと、久しぶりに見るぜ……!」

 「そうなんですか」

 「ああ。ほんと、よく分からないまま終わるから、気をつけて見ておいたほうがいい」


 アイーダサロンのメンバーがすでに待つステージ中央に、ジェラードも立つ。


 「……」


 踊り子のような、シアンとマゼンタの折り混ざった衣装を纏う相手が、レイピアを前にかざしている。


 ――ぅおお~!!


 主にアイーダサロン側から、男たちの太めの声援が聞こえた。


 ……アイーダサロンのファンってヤツだ。

 マナトは思った。


 ジェラードは、先ほど借りた鍼灸用の針を見せた。


 「お相手さん。俺は、この鍼灸用の針しか持っていないんだよねぇ」

 「!」

 「なので、いつでも、好きなときにかかっておいで」

 「ならば!!」


 ――シュッッ!


 ジェラードの言葉を聞いて一拍も置かずに、アイーダサロンの相手がジェラードへ向かって突き攻撃を放った。

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