524 ムハド達に向けられた視線

 「おぉ、来たぜ……!」

 「出た出た、あの連中だよ……今回の対抗戦、一番の番狂わせサロンだ……!」


 観衆が、にわかにザワつき始める。


 「……てかマジで、どこのサロンなんだよ?」

 「ぜんぜん、知らねえんだよなぁ、ムハドサロン」

 「まあ、おそらく最近出来たサロンなんだろうけど……アイーダも、まさかあんな、フェンやナジームんとこレベルのサロンがいたなんて、思いもしなかっただろうな」

 「だろうなぁ」


 その視線は、ステージ下手側に集中していた。


 「総当たり戦で、すべて、ストレート勝ちだもんなぁ」

 「まあ、それは他の3サロンも、一緒なんだけど……俺さ、実は密かに、アイツら応援してんだよ……!」


 その視線には、先ほどとは違った、新鮮さのある期待や好奇心が入り交じっている。


 「あっ、分かる。アレだろ?無名サロンの下克上的な」

 「そんな感じ。他のサロンと違って、俺たちのような、晴れ舞台には縁のなかった連中ってことだろ?」

 「ヤバい……そう思うと、応援したくなるな。……あれ?でもあのやたらと強かったアイツ、包帯ぐるぐる巻きなってんぜ?」

 「たしかに……あれじゃね?なんかケンカっぱやそうな感じだから、どっかでやらかしちまったんじゃねえか?」

 「あはは!それだな!間違いねえ!」

 「お~い!やたらと強い先鋒の兄ちゃん!肩の傷は大丈夫か!?」

 「今日もすげえ戦い、見せてくれよな!」


 どこからか、男2人の、そこそこ大きな声が響いた。他の場所からも、幾人か、同意の歓声も聞こえる。


 「……いまのたぶん、俺に言ったよな?」


 ラクトが観客側をキョロキョロと見渡しながら、マナトに言った。


 「だね。僕、途中で抜けたから見てないけど、ラクト、相当インパクトあったみたいだね」

 「あはは!なんだそういうことか!」

 「というか、完全に、どこかのサロンと勘違いされているね~」


 ムハド商隊は20人ほど。サロン1組の大体の人数と一致していた。


 「まあ、いいんじゃね?てか、なにげ俺たちが、一番人気あるんじゃないかって思うんだけど?」

 「たぶん、無名の新サロンだからって、思われてるんじゃないかな。それが、逆にみんな、親近感持ってくれてるんだと思う」

 「なるほど。……あぁ~戦いてぇえええ」

 「……さて」


 ムハドが数歩前に出て、振り返った。


 自然、マナトやラクトだけでなく、談笑していた皆、静かになり、ムハドを見た。


 「お前達に、言わなければならないことがある」


 ムハドは言った。


 周りの喧騒にかき消えてしまいそうでありながら、その声は皆に届いていた。


 「……」


 ムハドは一泊置いた。


 「……」


 どことなく、緊張が走る。


 「今回の対抗戦なんだが……」


 やがて、ムハドが口を開き、言った。


 「ぶっちゃけ、もう、負けてもいいんだよな!」

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