523 ウテナの勝利と、視線

 「マナト、あのナジームサロンの人……!」

 「えっ?」


 ミトに言われ、マナトは視線をステージ外に移した。


 ステージ外で倒れているナジームサロンのメンバーに、仲間たちが駆け寄って抱き起こしている。


 「おい!大丈夫か!」


 そのメンバーの、被っていたターバンが飛んでいた。


 「う……」


 背中まである長い髪。


 「な、ナジームさま……も、申し訳ございません」


 少し遅れてやって来たナジームに気づいたそのメンバーが、身を起こしつつ、言った。


 「フッ、まあ、仕方がないだろう」


 ナジームは苦笑しながら言う。


 「ハッキリ言って、強さのケタが違っていた。はじめてしっかりと戦っている姿を見たが、純粋な力で言えば、俺よりもはるかに強いな、ウテナは。たしかにジンではないかと疑われるだけ、あったな」

 「はい……」

 「少し、ウテナの挙動から、戦意があまりないように見えたから、勝機が見えた気がしたんだがなぁ」

 「私も、そう思ったのですが……ナジームさまの指示通り……サーベルの光を反射させて……」

 「ダメ、だったな。まあいい。今は、ゆっくり休め」


 医療班がやって来て、ナジームサロンのメンバーを担架で運んでゆくのを、マナトとミトは観客席から見守っていた。


 「そっか、あのナジームサロンの戦ってた人、女の人だったんだ」

 「みたいだね」


 ふとステージの上にいるウテナを見ると、ウテナもそちらを見ていた。


 「……」


 無言で、戦っていた相手が担架で運ばれてゆくのを見ている。


 先にナジームが言ったように、ナジームサロンのメンバーが石柱へと追い詰め、サーベルで追撃を加え、追撃に追撃を加えていた。


 ウテナは間一髪を回避するのがやっと……の、ように見えていた。


 しかし、そんなふうに皆が思った次の刹那。


 まさに、一瞬。


 《どいてほしいんだけど!!》


 ウテナの裏拳が、そのメンバーを吹き飛ばしていた。


 「……」


 やがて、ウテナは振り返った。


 仲間が、大はしゃぎでウテナの勝利を喜んでいる。


 ――わぁぁ!!


 喝采を浴びながら、勝利したウテナが、ステージを降りてゆく。


 ……足取りが、軽くなってる!


 マナトは思った。


 先ほどウテナに投げ掛けられていた無慈悲な声は、ウテナが勝利したことにより、完全に止んでいた。


 ――チラッ。


 ……あっ、一瞬止まって、またコチラを……!


 「おい、サーシャ、もう大丈夫だっつの」

 「……そう?でも、まだ包帯が……」

 「あのなぁ……」


 ……あかん!どう見てもイチャイチャしてるようにしか見えないんじゃ……!


 「うっし!」


 前に座っていたケント、またムハドをはじめ、他の面々が立ち上がり、マナトの視界が遮られた。


 「さぁて、俺たちの番だぞ!」


 ケントが立ち上がり、振り向いてマナトに言った。


 「あっ、はい!」


 クセの強い口調の司会がステージに上がり、フェンサロンの勝利を告げている。


 先までナジームサロンが戦っていた、ステージ下手脇へ。


 「ええと、相手は……あっ!」


 フェンのサロンに代わって、アイーダのサロンが、ステージ上手脇に集まっていた。

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