522 ウテナ、変革の時

 「ウテナ!!負けるなぁ!!」


 ……また、ラクトの声。どこ?どこにいるの?


 石柱を背に負って、サーベルの攻撃を間一髪で回避しながら、ウテナは攻撃を繰り出してくる相手の、奥の背景に視線を送る。


 ナジームサロンが陣取っている、ステージ下手の先の観客席。


 立ち上がって、大声で叫ぶ男。


 「ラクト……!」


 その瞳に、ラクトが映った。


 ――ドクドク……。


 ……あたしの身体に流れている血が、いのちが、新たにいきいきと脈打ち始める。


 《まだ、死にたいって、思ってるのか?》

 《あははは!なにでっけぇ声出して……ぷははっ!!》

 《おいどうしたよウテナ?まさかここまで来ておいて、ひいてるのか?》


 あぁ、ラクト。


 なにも覚えてないって言われたときは、ちょっとショックだったけど、それでもいい。


 あの時を、忘れない。2人で生きるって、決めたんだものね、ラクト……!


 と、ラクトのすぐ隣に、金髪の女が立ち上がった。


 「……あっ?」


 その女が、しなやかな手つきで、ラクトの左肩のに触れた。


 ……なに?なんなの?あのオンナ。


 時おり、ラクトになにか言っている。大切ななにかに触れるような仕草で、なにかをしていた。


 ――ドクドク……!


 別もののような血が、体内を駆け巡る。


 ……なに?あたしになにか見せつけてるかんじ?ちょっとマジでありえ……!


 ――バッ!


 目の前に、白装束とターバンを纏った者が視界を遮った。


 ――キラッ!


 サーベルのきらめきが、ウテナの瞳に入ってきた。


 「ちょっと……」


 ――スッ……。


 右腕に、力。


 「どいてほしいんだけど!!」


 ――ドッッ!!


 ……あれ?


 いま、一瞬、自分の中に見出だしてしまった、声。


 ……あぁ、そうか、そうだったんだ……。


 「……」


 ウテナの耳に聞こえていた、さまざまな声は、もう、止んでいた。


 ……いや、あたし自身が、あの声を、発してしまったんだ……いま、まさに。


 「……」


 ステージに、視線を戻す。


 そこに、ナジームサロンの、サーベルを持っていた相手は、いなくなっていた。


 「あっ……」


 ラクトが万歳して、自分の勝利を喜んでくれている。


 その隣には……、


 ……いや、でもやっぱり無理。ムカつくわ、あの女!


     ※     ※     ※


 ――わぁぁ!!


 「おおおぉ!!スッッゲェ!!」

 「つええ!!つええぞウテナーーーー!!」


 歓声が、ステージを包む。


 「おっしゃぁあああ!!!」

 「勝った勝った~!!」


 ラクトとミトが万歳して、ウテナ勝利を喜んでいる。


 「……んっ?」


 ……ウテナさん、チラチラこっち見てるような……?


 「なんか、ウテナさん、ラク……」


 思ったマナトは、ラクトのほうを見た。


 「あっ」


 サーシャも、立ち上がっていた。


 「さ、サーシャ?どうした?」

 「……また、包帯が」

 「い、いや、別にほどけてないんですけど……?」

 「ほどけそうになってる」

 「いや、なってるって……」


 ラクトの左腕に、サーシャが腕を回して、なにやら、包帯の緩くなっているっぽいところを、優しく触れていた。


 ……あか~ん。

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