521 ウテナ、その心

 ――タッ!


 サーベルの光が瞳に映るや否や、ウテナはそれから逃れるように素早くサイドステップした。


 「えっ、ちょっと!?」

 「おい、やっぱおかしいぜ……!」


 異変に気づいたライラとオルハンが、ステージ際に駆け寄る。


 フェンとフィオナも、2人のすぐ後ろで戦況を見守る。


 ――タタッ!


 ナジームサロンのメンバーが、ウテナの動きに合わせて踏み込んできた。


 ――シュッ!

 サーベルの攻撃。


 ウテナはかわしつつ、一歩下がった。


 ――シュシュッ!


 さらに踏み込み、追撃。


 相手が、だんだんと大胆に踏み込むようになってきた。


 「ウテナどうしたの!?」

 「なにしてんだウテナ!そんなヤツに手こずるようなお前じゃねえだろ!」


 ライラとオルハンが叫んだ。


 すると、フェンのサロンメンバーと同じような服装して溶け込み、一緒に観戦していた諜報員ミリーが、前に出てきた。


 「ウテナさまは、あの日以来、ずっと、自らを責めていたのであります……」

 「自らを……?」

 「なんでウテナが自分を責めるんだよ!」

 「それは、わたしも、うまく言えないのであります……」

 「ウテナ……」


 フィオナも、不安な眼差しでステージ上で戦うウテナを見つめた。


 ――トン!


 「!」


 ウテナの背中が石柱に当たる。サーベルを回避し続けていたが、とうとう、追い詰められてしまっていた。


 「……」


 ……どうしても、あのときの光景と、重ねてしまう。


 ――キラッ。


 「!」


 ……また……!


 あの朝……自分の家の扉のすき間から見た、婦人たち、包丁のきらめき。


 ――シュッッ!


 目の前。ターバンの、下から除く、その瞳。


 「ウゥゥ……!」


 他の人には、おそらく聞こえていない。


 自分にだけは聞こえている、唸り声。敵意。


 敵意が、怖い。目に見えないのに聞こえてくるその声が、怖い。


 みんなの応援する声。頑張らないといけない。そんなこと分かってる。なのに、怖くなってしまう。なにもかも……。


 心のなかが、荒れ狂う。


 あんなに決意して戻ってきたのに……あの声が鳴り止まない。


 みんなのために犠牲になろうっていう、愚かな思いは、断ち切った。ヤスリブボタルとあの馬車の運転士が、教えてくれた。


 けど……やっぱり、辛い。声が聞こえると、つめたい戦慄が自らの背筋を通り抜ける。


 まるで自分がはりつけに縛り付けらているような……、そして、引き裂かれそうな……。


 「ウテナぁ!!」


 客席のどこからか、大きな声が上がった。


 ……ラクト!


 あの、天廊で崩壊の一途を辿っているときも、そうだった。


 そして、さっきも。一瞬だけでもあたしを取り巻く声を完全に途切れさせる、ラクトの声。

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