520 ウテナの弱点

 「……」


 ステージ上、ナジームサロンのメンバーも、サーベルを構えたまま硬直している。


 ウテナが攻撃してこなかったことを、不審がっているようだ。


 「おい、ナジーム」


 ステージ下手側で、ナジームの隣で観戦しているサロンメンバーの一人が言った。


 「いまのウテナのムーブ、完璧なタイミングだったよな?」

 「ああ」


 ナジームもうなずいた。


 「サーベルの防御は間に合ってなかった。確実に、横から殴り飛ばせていたはずだが……」

 「踏み込んで来なかったな」

 「そう、だな……」


 ステージ上、引き下がったウテナを、ナジームは凝視した。


 ――タン!


 ナジームのサロンメンバーが地面を蹴った。


 ――ヒュッ!シュッ!


 前進しながら、ウテナに向けてサーベルの突き攻撃や左右へ振る斬撃を繰り出す。


 ――スッ、スッ……!


 対して、ウテナは後退しながら、左右に揺れつつ攻撃を回避。


 徐々に、ステージ端へとウテナを追い込む。


 ――ススッ……!


 しかし一瞬の隙をつき、横振りのサーベルの下をウテナはくぐり抜ける。


 「……くっ」


 ナジームのサロンメンバーと、ウテナの位置が入れ替わった。


 ――おぉ~!!


 「……見事すぎる」

 「ダメだ、攻撃は完全に、ウテナに見切られてる……!」


 ウテナの動きを見た観衆は沸き、ナジームと隣のサロンメンバーの一人も、思わずつぶやいた。


 ――タタッタタタ……!


 ウテナのステップを踏む音。リズムを刻みながらスピードを増してゆく。


 「くそ……!」


 ナジームサロンのメンバーが跳躍した。


 「まずい!慌てるなぁ!!」


 ――シュッッ!


 ナジームは叫んだが、ナジームサロンのメンバーはサーベルを振り回した。


 しかしそのサーベルは、ウテナの残像すら捉えることなく空を斬る。


 「んな……!」


 ――タッ!


 そして、ウテナ自身は、もう、背後に回っていた。


 「くぅ……!」


 後ろから、ナックルダスターの右拳の振りかぶる動きが目の端に見える。


 「まずいやられる!!かわせ!!」

 「ダメだ!!もう間に合わない!!」


 ――キラッ。


 サーベルの刃が、頭上の照明に反射して光った。


 「!」


 ――サッッ!


 ウテナが後退した。


 ――おぉ!?


 「あっ!?」


 観衆も、ナジームサロンの観戦しているメンバーも、唖然としてステージを凝視した。


 「いまの……!」


 そんな中、ナジームは、今度は見逃さなかった。


 別に攻撃をくらった訳でもないにも関わらず、ウテナの顔の表情が、一瞬、険しくなっていた。


 ――バッ!

 ナジームがステージ際に駆け寄る。


 そして、戦っているサロンメンバーへ向けて叫んだ。


 「いける!!勝てるぞ!!」

 「!」

 「サーベルの刃の反射している光だ!なぜだかは分からんが、ウテナに、攻撃することを躊躇わせている!」

 「……」


 ナジームサロンのメンバーが、コクリと軽くうなずいた。


 「いけ!!」


 ナジームの掛け声に後押しされるように、跳躍。


 ――キラッ。


 前進しながら、ウテナの顔へ向けてサーベルの刃の光をあてる。


 「くっ!」

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