519 ウテナVSナジームサロンのメンバー

 「……」


 深被りしたターバンの下から、ウテナを見据える。背は、ウテナと同じ。白装束のため、体型は分かりづらいが、おそらく、ウテナくらいのやせ形と思われた。


 ――シャキ……。


 そして、ゆっくりと腰につけているサーベルを抜き、ステージ中央でウテナへ向けて掲げた。


 ――パン!パン!


 ウテナが両手で、自分の頬を叩いた。


 「あ~もう!聞こえない聞こえない……!」


 なにかを振り払うように、首を横に何度か振っている。


 そして、胸に手をあて、深呼吸をした。


 「フゥ~……よし!」


 ……おっ、瞳に少し、生気が戻った……かな?

 客席からウテナを見ながら、マナトは思った。


 相手のナジームサロンのメンバーを、そのまなこに捉えたようだった。


 ――カチャッ。


 ナックルダスターが、右手に装着される。


 そして、右拳を、前へ差し出す。


 ――カン。


 金属音。サーベルと、ナックルダスターが触れた。


 瞬間、両者が素早く、後ろに引いた。


 ――わぁぁ!!


 歓声が、戦いの開始を告げる。


 「始まったな……!」

 「そうだね……!」


 ラクトとミトが、ステージを凝視しながら、緊張気味に言った。


 「……お相手さん、慎重だな」

 ラクトが言った。


 ステージ上、ナジームサロンのメンバーは腰を低くしたまま、少し左右に動くのみで、仕掛けては来ない。


 「あのウテナさんが、相手だからなぁ」

 「……そんなに、強いの?」


 サーシャが、ラクトの横から顔を出して、ミトに聞いた。


 「ええ、強いですよ。実際に戦いを見たことありますけど、盗賊団を拳ひとつで壊滅させてましたから」

 「へぇ……」

 「このメロの国で、」


 マナトも口を開いた。


 「ウテナさんは、かなり特別な存在っていうのも、あるんだろうね。あのナジームサロンの人、英雄に挑んでいるようなものじゃないかな?」

 「ウテナが!」

 「!」


 ――タッ!


 ステージ上、ウテナが踏み込む。


 「!」


 ――スァァ!!


 ウテナの踏み込みに合わせた、相手のサーベルの一閃。


 ――スタッ。


 ウテナは回転しながら後退し、もとの場所に着地した。


 「……相手、闘志は間違いないわね」

 「ですね」

 「そうですね。これから、拳のリーチのなさを逆手に取って、距離を取りつつ、サーベルで攻撃してくるんじゃないですかね」


 ミトが言ったとおり、ナジームサロンのメンバーが、じりじりと前進。ウテナとの間を詰め始めた。


 ――タッ!


 ウテナが前に出た。


 ――シュッッ!


 相手のサーベル。


 ――タタ……!


 ウテナの足が素早く動いた。


 サーベルが空を斬る。ステップを踏んで回避し、ウテナが相手の横に回る。


 腰が下がり、腕が上がった。右ストレートの構え。


 「いける!!」

 ミトが叫んだ。


 「あの一撃は血が出なくても戦闘不能になるぜ!!」

 ラクトが言った。


 ……いやそれ、めっちゃ怖い。

 マナトは思った。


 「くっ……!」


 ナジームサロンのメンバーが、なんとかサーベルを横振りにウテナへ向けようとした。


 しかし、間に合わない。


 ――タッ。


 が、次の瞬間、ウテナは拳を振り抜かずに下がった。


 「えっ!?」

 「いまの、確実に打ち込めるチャンスだった……よな!?」


 見ているミトとラクトが、顔を見合わせた。


 「どういうことだ……!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る