125 ウシュムのマナ
マナトは、店の番をしている、口の上と顎に少し髭を生やし、ターバンを深く被り目元を隠している男に声をかけた。
「お兄さん、この透明な石の中って、何が入ってるんですか?」
「あぁ……これはな」
低いダンディーな声の男は、少しうつむき加減になった。そして、なにか重要なことでも言う準備かのように、深く、フゥ~と、深呼吸した。
「……世界の果てにあるといわれている、永久の石というものだ。この石の中にある赤い光に触れると、永遠の命が手に入るといわれているんだ」
「えっ、永遠の、命!?」
「……ぷふ、あはははは!!」
男は、大笑いし出した。
「いまの反応、マジなヤツだったぞ!!あははは!!」
……うわぁ、やられた!あぁ~、恥ずかしい~。
マナトの顔はみるみる赤くなっていった。
「そんなの、この市場で、こんなホイホイ売られてる訳ないだろ!!」
「マ、マナトくん……本当にいまの、信じかけてたの?」
男と、後ろでコスナを抱くステラに言われ、マナトの顔は汗ばんで、もはや、頭から湯気が出そうになっていた。
……いやいや!分かんないっすよぉぉ……こちとらヤスリブ出身じゃないんだから……こんな世界なら、そんなのもあるのかなって、思っちゃうじゃない……!
心の中でマナトは言い訳していたが、この状況……自分の知識の無さを認め、笑われるしかなかった。
「あぁ~、おもしろかった。……ほい、やるよ」
男は言うと、中で赤くうごめく透明な石を手に取り、マナトに差し出した。
「えっ?」
「笑わしてもらったお礼だ」
「いいんですか?」
「その純粋さに免じて、な。これ、ウシュムのマナの源炎石なんだ」
「ウシュムの、マナの……?」
「大丈夫よ、マナトくん。今度はこの人、ホントのこと、言ってるから」
ステラがコスナをなでなでしながら、男のフォローに入った。
……いやいや、それはそれで珍しそうじゃないすか?もう、分かりません!
マナトは心の中で、男とステラにツッコミを入れた。
と、もう一点、気になることが出てきて、それは口に出した。
「えっ、でも今回って、ムハド大商隊って、ウームー地方に交易に行ってたんじゃないですか?」
「おぉなんだよ、そういうとこは気づくのか……」
男が少し顔を上げた。ターバンの奥にある目が、マナトを見つめた。
「ウシュムの地は、ウームーと隣合う位置関係にあるんだよ。そして、クルールのマナが水を司るように、古くから、ウシュムのマナは、炎を司ると言われていてな。その源となる炎が、この石の中に納められているんだ」
「へぇ……」
「……お前、もしかして、最近入ってきたっていう、新米キャラバンか?」
「あっ、はい。マナトといいます」
男が、ターバンを取った。女ウケがいいというより、男が格好いいと思うような、低いダンディーな声にふさわしい顔をしていた。
「ジェラードだ。ムハドの隊で副隊長をしている。まあ、顔だけ覚えておいてくれや」
「あぁ、声が似てると思ったら、ジェラ……」
「しっ!!」
ステラを黙らせ、一瞬だけ顔を見せると、すぐにジェラードはターバンを被り直した。
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