126 ジェラード/マナの種類

 「いいかステラ、俺が、ここにいるということは、内緒だからな」

 「は、はぁ……」


 ジェラードは言うと立ち上がり、店の奥から別の宝石と思わしき綺麗な石を持ってきて、先までマナの源炎石の置いてあったスペースに置いた。


 「てゆうか、こんなとこで、何してるんですか……」

 「俺はこうやって、村のみんなの様子を見ているのが好きなんだよねぇ。言ってみれば、趣味だ、趣味」

 「……」

 「ジェラードさん、ちょっと、聞きたいんですけど」


 マナトは空気を読みつつ、ジェラードに言った。


 「おう、なんだ?」


 ジェラードは機嫌よさそうな感じで、マナトに返事した。


 「クルールのマナが水を司っていて、ウシュムのマナは炎で、ウームーが……」

 「おう、それはな……」


 ジェラードは、露店に出されている品物の中から、木でできた小さな風車を手に取った。


 その風車は、くるくる回って、小さな風が吹いていた。


 「風、というわけですね」

 「ああ、そういうことだな」

 「長老の家で見せてもらった紙で、このヤスリブには11の地方があるってことを知りました。それぞれの地方のマナごとに、性質が異なるってことなんですか?」

 「それは、俺たちも、調べているところなんだよねぇ」


 ジェラードは、小さな風車をもとの場所に戻した。


 「俺たちムハド大商隊は、クルール地方を出て、外の地方との交易を主体としてやるようになっているが、それも、最近になってのことなんだ」

 「あっ、そうなんですね」

 「マナの性質が地方ごとに異なるというのは昔から知られていたが、どこの地方のマナが何の性質をしているというのは、いま、まさに、調査中といった感じなんだよ」

 「なるほど」

 「ウームーに行ったのも、今回が初めてだったからねぇ」

 「ウームーは、どんなところだったんですか?」

 「山とか谷が多かった。代わりに、砂漠が少ない印象だ。……やっぱ、ヤスリブは広い。クルールとはちょっと違う地方が、目の前に広がっていた」


 ジェラードは、懐かしそうに、ウームー地方のことを少しだけ、マナトとステラに説明した。


 「もう一人の副隊長、リートってヤツが、地方のあれこれについてとか、マナについては詳しくまとめているはずだ。アイツは長老の側近のようなヤツだからな」

 「そうですか。ありがとうございました」

 「おう」


 マナトはお礼を言うと、ジェラードの露店をあとにした。


 歩きながら、ステラはマナトの耳元に口を近づけてきた。


 「ちょっと変な人なのよ、ジェラードさんって。交易会議にも参加してるとこ、ほとんど見たことないし。ああやって謎の人間観察してたり、とにかく、よく分からない行動取る人って印象なの」

 「あぁ、そうなんですね」

 「悪い人じゃないんだけど、女の人からはそんなによく思われてないわね」

 「ありゃりゃ……そうですか」

 「代わりに、男達からは、すごい人気があるみたいだけど」

 「あぁ、なるほど。何となく分かる気がします」


 そんなことを話しながら、マナトとコスナを抱いたステラは、市場を徘徊した。


 マナトは歩きながら、懐に入れたマナの源炎石を取り出した。


 ……ウシュム地方か。

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