83 ジン=グールとの戦い③

 ミトがチラッとマナトを見て言った。


 「僕とラクトで撹乱する!水柱みずばしらの準備を!」


 ミトが再び、飛び出した。それに呼応する形でラクトも動く。


 ジンの、黒緑色にあやしく光る触手のような右腕が完全に再生し、激しくうねる。


 ミトとラクトのダガーと、ジンの右腕が激しくぶつかり合った。


 「ぅおお!!!」

 「ぁあああ!!!」


 切られても、すぐにジンの右腕は再生する。だが構うことなしにミトとラクトは乱舞した。


 「お前ら……!」

 「すごい……!」


 ミトとラクトの戦いを見たケント、フィオナ、ウテナ、ルナ……皆が驚きの表情で2人を見ていた。


 ジン=マリードとの戦いを経た今、ミト、ラクトに恐れはなかった。


 ……そして、僕も!


 マナトは精一杯、両手で水を圧縮した。


 「今だ!マナト!」

 「ぉおおお!!」


 ――ドドドドォォォオオオッ!!!!


 マナトの開いた両手から、水柱がもの凄い勢いで放たれる。


 ――ビュン!!


 「なに!?」


 ジンがマナト目掛けて、右腕を伸ばしてきた。


 マナトの水柱とジンの右腕が逆平行にすれ違う。


 ――ドドッ!!!


 ジンの幼い身体に水柱が直撃。吹き飛んだ。


 「うわっ!!」


 マナトもジンと同じ方向に吹き飛んだ。ジンの右腕の先端が届き、マナトの突き出した右手首に巻き付いていた。


 「マナト!!」

 ミトとラクトが叫んだ。


 ――ザァンッ!!!!


 ケントが再び動いた。大剣の斬撃の音が鳴り響く。


 マナトとジンは切り離された。水のクッションでマナトは自ら身を守る。巻き付いていたジンのそれは、塵となって消えた。


 対するジンは、飛ばされながら切り離された右腕を勢いよく振り下ろした。


 ――ペタッ。


 すると、その先端が地面にくっついた。


 そして、そこを軸にして弧を描くようにぐる~っと半回転して着地した。


 「コイツ……こなれたことを……!」


 ジンのリカバリーを見たケントが、小憎らしげにつぶやいた。


 「……」


 と、黒緑に光る右腕が、止まった。


 「……やめた」


 ――サァ~。


 そして、その右腕の先端から、塵となって消え始めた。


 「楽しかったよ、お兄ちゃんたち」

 「えっ……!」

 「これは……!」


 ミト、ラクト、マナトは顔を見合わせた。


 「ほんとは、そんなにお腹、空いてなかったんだよね。さっきも、満腹になるまで、食べたからさ」

 「お前、やはり、盗賊団を……!!」

 「あはは……!!」


 ジンが笑った。やはりそれは、幼い子供の、ぞっとするような笑顔だった。


 「じゃあね、お兄ちゃんたち……」


 ――サアアアァァァァ……。


 あっという間に、ジン=グールは消え失せた。


 「……ふぃ~!」


 ケントは大剣を置くと、力が抜けたように腰が落ちた。


 他のみんなも、へたへたと座り込んだ。


 ケントは、近くの大きな岩を見ると、指差した。


 「ちょっち、そこの岩影で休もうぜ。マナト、水くれ……」


     ※     ※     ※

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