84 西のサライにて

 西のサライに、ケントとフィオナの合同商隊は到着した。


 「おや、君たちか。交易帰りだね」


 前にこのサライに来た際、ジンの情報を教えてくれた管理人の男がやって来て、ケントに話しかけた。


 「どうした?随分と、疲れた顔をしているじゃないか。アクス王国に行ってたんだろう?」

 「ああ」

 「あの国からここまではそんなに距離はないハズだ。さては王国で遊び過ぎて、夜更かしでもしてたんじゃないか?ははは!」

 「……」


 管理人はどこか、機嫌の良さそうな感じだ。


 「なんか、いいことでもあったのか?」

 「いいことも何も、君たちも聞いただろう?アクス王国の護衛団が、ジンを追い払ってくれたというじゃあないか」

 「いや……」

 「ケント、話しておいたほうがいいわね」

 「ああ」


 ケントとフィオナが、振り向いた。


 「ちょっと、管理人と話してくる」


 おそらく、先のジン=グールについての報告をするのであろう。ケントとフィオナは管理人を連れて、回廊内へと消えていった。


 マナトはラクダ達を誘導し、中庭まで連れてきた。


 「あっ、誰もいないのか……」


 前にここに来た際は、他にも多くのキャラバン達がいて、なかなかにぎやかだったのだが、今はがらんとしていて、マナト達以外に利用している者はいないようだった。


 管理人の使いの者がやって来た。


 「今日は誰もいないので、自由にお使い下さい」

 「はい、ありがとうございます」

 「ジンの出現で、交易を見送っているキャラバンが多いようですね」

 「なるほど、そうですか」


 ラクダ達はまだ十分余力がありそうな感じで、誰もいないのをいいことに、軽く走ったり、歩き回ったりしている。


 「はいはい。荷物おろすから、みんな、止まって~」

 「マナトぉ~!」

 「んっ?」


 ラクトが、回廊から姿を現し、手を振っていた。


 「先に、お風呂わかしてくれ~!戦いで汗だくなんだよ~」

 「あっ、そうだよね!」


 ……やっぱり、サライの中は、落ち着くなぁ~。


 一旦宿泊スペースに戻り、マナトはアクス王国で補充した水を水壺から風呂釜へと注ぎながら、しみじみとマナトは思った。


 今回の行商では経験する予定はないが、キャラバンは長旅の場合、野宿することも全然あるらしい。


 マナトは水を注ぐと、持参した火のマナ石を取り出し、風呂釜の下にすべり込ませた。


 たちまち、湯気がたちのぼる。


 「あの~」


 声がして振り向くと、ルナがマナト達の宿泊スペースへやって来ていた。


 「どうしたの?」

 「すみません、ちょっと、水を分けてもらえませんか?私たちも持参していたんですが、予定より長期遠征になっちゃったので……」

 「あっ、そうだよね!分かりました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る