347 アブドの提案

 「ちょっと!アブド公爵!」


 歩き出そうとするアブドに、ライラが慌てて近寄る。


 「あの、まだ話が……」

 「明日以降の、サロン大会の式次第を変更しておくように、先ほど私の部下に言っておいた」

 「式次第を、変更……?」

 「じきに、司会が皆に伝えるであろう。サロンの強さを、皆の前で示したまえ。では」


 言い終えると、アブドは執事やもう一人の公爵とともに、テントの出入り口へと早足で歩いていってしまった。


 「あぁ、ちょっと……!」

 「まあまあ」

 「おい、周りから見られてるぞ」

 「ほら、ライラ、戻りましょ」


 4人は自分たちの席へと戻った。


 「あの、どうしたんですか?」


 隊長たちの一つ後ろの席に座っていたウテナが、身を乗り出してフィオナに聞いた。


 「いやまあ、ちょっとね……」

 「さっきの、キャラバンの階級制度の発表についてですか?」

 「そうね」


 フィオナが苦笑しながら答えた。


 ステージ上の催しものが、終わった。踊り子たちや演奏隊が、はけてゆく。


 と、テンション高めの司会が、ステージへ立った。


 「えぇ~!ここでぇ!明日以降のサロン大会についてのぉ~!式次第の変更がございま~す!」

 「!」

 「明日よりぃ~!キャラバン階級制度のぉ~!階級の昇級をかけてぇ~!サロン対抗戦を行っていただきまぁ~す!」


 司会が相変わらずの口調で、話を続ける。


 「階級の昇級を希望するサロンはぁ~、そのサロン内で代表者2名を選出してもらってぇ~!」


 司会が、自らの足下、ステージを指差した。


 「ここのステージでぇ~!戦ってもらいまぁ~す!そこでぇ~!優勝したサロンはぁ~!上階級のアーリへと引き上げることにいたしまぁ~す!」


 ――おぉ~!!


 会場内は、にわかに盛り上がりをみせた。


 「サロン対抗戦か……」

 「こんなことになるなんてね……」


 フェンとフィオナが、ゆっくりとライラに顔を向けた。


 「よし!」


 ライラは、してやったりと、ガッツポーズしている。


 「やってやるぜ……!!」


 もう一人、オルハンが拳に力を込めていた。


 「いや、オルハン。君は、負傷しているじゃないか」

 「大丈夫だ。問題ない」


 フェンがオルハンに注意しても、オルハンはもう、やる気満々になっている。


 「代表者2名のうちの一つはとりあえず、俺な!」

 「やれやれ、しょうがないなぁ……」

 「もう一人はどうするよ?フェン」

 「えっ、そりゃ今回の発起人の、ライラで……」

 「いいえ、私は戦わないわ」


 するとライラは、すたすたと歩いていき、ウテナの後ろに立って、その肩に両手を置いた。


 「あの、ライラ、さん?」

 「ウ、テ、ナ。頼んだわよ」


 そう言い、ライラはにっこり微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る