346 ライラ、もの申す


     ※     ※     ※


 巨大なテント内、ステージ上では、華やかな衣装を着飾った踊り子が、演奏に合わせて舞い踊っていた。


 そのステージから下がり、自分の席についた公爵のアブドのもとに、ライラが押し寄せていた。フェンやフィオナ、オルハンもついてきている。


 「……なんなんだ、君たちは」


 アブドについている執事が前に立ちはだかり、困ったようにライラに言った。


 「自分たちの席へと、戻り……」

 「だ~か~ら!私たちのサロン、今度、アクス王国に交易する予定が入ってるんだけど!」

 「それは、別の、アーリの階級のサロンに引き継ぎ……」

 「これまで、なんの問題もなく交易できてたのに!?」


 ライラが語気を強める。


 「いや、これは、国全体で決めたことであって……」

 「国じゃなくて、一部の公爵とその配下で決めただけのことでしょ!!」


 ライラがグイグイと、執事に詰め寄る。


 「……おい、これ、ヤバいんじゃないのか?」


 ライラの一歩後ろで、小さな声で、オルハンがフェンに囁く。


 「ああ、明らかに、問題行為だと思う……」

 「でも、あのライラは、もう、止められないよな……」

 「そうだね。とりあえず、見守ろう……」


 また、2人と同じくフィオナも、苦笑しながら、成り行きに任せていた。


 「私たち、今回の交易報酬競争で、一番だったんですけど!?」

 「それは、また別の話で……」

 「これまでできてたことができなくなるの、はっきり言って嫌なんですけど!!アンタ分かんないの!?」

 「おい、君、いい加減に……」

 「ちょっと待ちたまえ」


 執事の後ろから、アブドの声がした。


 執事に、下がるように指示を出し、足を組んで椅子に座りながら、アブドはライラへと目線を向けた。


 「話を聞いているかぎり……」


 アブドが、落ち着いた声で、ライラに言った。


 「階級制度に対して、どうやら、不満があるようだね」

 「は、はい!」


 アブドと直に対面し、ライラは緊張した表情になった。


 中年男性に特有に見られる、余裕と威厳のようなものが、アブドには、より一層、漂っている。


 だが、その茶色い瞳は、青年のような、不適な輝きを失ってはいない。


 「ふむ……。私は、こういった、若い、異議を唱える意見が嫌いではない。私自身がそうであったように。だが、今回の階級制度は、いまの時代に必要と判断されて、制定したものでもあるのだ。……お嬢さん、ライラと言ったね」

 「は、はい!」


 アブドが、右手の人差し指を立てた。


 「ではそのサロンの強さを、皆の前で示すというのは、どうかね?」

 「皆の前で、ですか?」

 「そうだ。おい君、ちょっと、2日目のサロン大会の式次第変更を……」


 アブドが、側にいた執事に、なにやら指示を出し始めた。


 「すみません、アブド公爵、至急……」


 そんな中、別の執事が慌ただしくやって来た。


 アブドに、耳打ちする。


 「!」


 ――バッ!


 アブドが椅子から立ち上がった。


 「……本当なのか?」

 「はい……」


 もう一人、アブドより少し奥に座っている公爵も、立ち上がっていた。


 2人の公爵が目を合わせ、うなずく。


 「失礼。急用ができた」

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