358 ウテナの噂②
ウテナに関して、さまざまな噂が飛び交っていた。
少し前、先に通ってきた大通りの市場あたりで、ワイルドグリフィンという、空を飛ぶ獰猛種の群れが街中上空に出現した際、拳一つで撃退したという武勇伝は、もはやメロ国内で知らない者はいないほどに有名な話となっていた。
その一件以来、ウテナはまるで英雄的な存在にトップアイドルを掛け合わせたような、絶大な人気をメロ国内で欲しいままにしていて、今でもその人気の余波が、先に興奮気味に話していた酒屋の看板娘だという女性からも伺い知ることができた。
しかし、そんな彼女に、いま、一抹の闇が、かかり始めていた。
事の発端は、国内での、ジンの出現だった。
街中でジンを追跡していた護衛たちの前にウテナが現れて、護衛たちを襲いかかったというのだ。
その交戦の時、ウテナから血が出ていないというのを、複数の居合わせた住民が目撃していた。
ウテナは、ジンではないか。
前のワイルドグリフィンを前にしての圧倒的な強さが、かえってその説に拍車をかけているようだった。
「……知り合い、なの?」
マナトが考えていると、ラクトの隣にいたサーシャが口を開いた。
「そうですね。アクス王国交易の際、共行してもらった商隊にいたんです」
「そう」
「でもこんなに、メロの国で有名になっていたなんて、正直、驚きです」
すると、ラクトがマナトに付け足す形で言った。
「当時の印象だと、ちょっとミーハーなところがあって、お酒を飲む時と、眠気が強い時は、キャラが変わるっていう感じだったよな。それに、振り回されたっていうか、なんつ~か……あと、ジン=グールに遭遇した時とかは、落ち込んで……」
――じ~。
途中から、サーシャが横目で睨むように、ラクトを見ていた。
「な、なんだよ?」
「……別に」
ぷいっと、サーシャはラクトから顔を背けた。
代わりに、ニナがマナトとラクトに問いかけた。
「その、ウテナって人は、強かったの?」
「はい。ものすごく強かったです。僕らの商隊で言えば、ミトとかラクトとか、そのあたりくらいかと」
……彼女もおそらく、ホモ=バトレアンフォーシスなのだろう。
言いつつ、マナトは心の中で、思った。
「へぇ~」
「だからこそ、逆にジンじゃないかって、疑われてるんじゃないかな」
「ウテナが、ジンのハズがねえ」
ラクトが言う。
マナトはうなずいた。
「うん。ウテナさんが、ジンそのものでないことは、確かだよね。アクス王国で、みんな、血の確認をしていたし」
「そうだ!そうだったよな!」
「噂はあくまで噂として、情報を取捨選択していかないと、だね。……どこの世界でも、こういったことは、変わらないなぁ」
「えっ?」
「いや、なんでも」
やがて、巨木と巨木の間から、ラクダ舎が見えてきた。
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