359 ラクダ、納入

 「うわぁ!たっくさ~ん!」


 そのラクダ舎の数に、ニナが両手をあげてはしゃぎ出した。


 ラクダ舎それ自体は、よくあるオーソドックスな、石の壁と屋根の掘っ立て小屋風のつくりをしているが、驚くべきはその多さだった。


 ざっと見るだけでは、何棟あるか分からないほどに多い。


 分譲住宅のように均等に建てられていて、巨木のエリアに、ちょっとした村が出来上がっているような、そんな光景だった。


 ムハド商隊は、手分けしてラクダ達50頭を、次々と新しい住居へ入れていった。


 「よ~し。みんな、お疲れさま~」


 マナトはラクダに取り付けていた縄を手際よく外していった。もう、慣れたものだ。


 作業を終え、柵の外に出る。


 「……やっぱり、ちょっと、寂しくなるなぁ~」


 ――フォア~。


 縄を外され、自由の身となったラクダはひと鳴きすると、腹が減っていたのか、すぐに備え付けられている餌場へ。


 餌場には、木の葉と豆が混ぜている餌が置かれていて、ラクダはモシャモシャと食べ始めた。


 「うぅ……」

 「マナトお兄ちゃん!?」

 「元気でね、みんな……」

 「……ラクダさん達とお別れで、さみしいんだね、マナトお兄ちゃん。……ぐすん」


 マナトが餌を食べるラクダを見ながら涙ぐんでいるのを見て、ニナがもらい泣きしている。


 「おいおい、マジかよお前ら……」


 同じように作業を済ませたラクトが、マナトとニナを見て呆れていた。


 サーシャも2人を見ていた。


 「涙もろいのね、彼」

 「いや、最近、やたらと涙もろくなりやがってな。……いや、割と前からか」

 「思っていた以上に、変わった人ね、彼」

 「ああ。そこそこ付き合い長いけど、未だに分からんところが多いよ、はは」

 「……ウフフ」


 サーシャが、微笑んだ。


 「……」


 それを横目で、ラクトが見ていた。


 「……なに?」

 「いや、」


 ラクトは視線を、マナトとニナに戻しながら、淡々と言った。


 「よく、笑うようになったじゃねえか」

 「!」

 「あっ、もちろん、いい意味で言ってるからな?笑顔のほうが、いいぜ、あんたは」

 「……」


 そんなこんなで、ようやく、ムハド商隊は、ラクダ達を無事、メロの国に届けることができた。


 「終わった~」

 「とりあえずは、ひと息って感じ~」

 「いや~、お疲れお疲れ~」


 所々で、ひとまずの安堵の空気が流れ、お互いねぎらう言葉をかけ合っている。


 「う~ん。一棟につき、この大きさだと、10頭は入りそうだな~」


 そんな中、ラクトは興味深そうに、ラクダ舎を眺めていた。


 すると、サーシャが上方向を指差した。


 「……いくつか、あっちのラクダ舎の屋根、少し色が変わってる」

 「あっ、ほんとだ。あれだな、築年数が長くなって、ああいう色になるってヤツだな」

 「古くなってきてるってこと?」

 「いや、でもまだ、あれは新しいほうだ。どうやら、このへんが新築のようだな」

 「詳しいのね」

 「家業の関係でな」


 ラクトとサーシャが、あれこれを話している。


 「……」


 常にサーシャの一歩後ろで控えていた召し使いが、す~っと、マナトのもとに、やって来た。


 「……どう思います?マナトさん」


 小さな声で、召し使いがマナトに耳打ちした。


 「えっ?どう、とは?」

 「サーシャさまと、ラクトさんですよ……!」

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