360 召し使いとマナトの会話
「サーシャさんと、ラクト、ですか……」
改めて、2人を見る。
ラクダ舎内、柵の中でゆるりと過ごすラクダを眺めながら、2人は会話を続けているようだ。
「たしかに、よく一緒にいるような?」
「そうなんですの」
先の武器狩りの盗賊との戦いのときも、2人で一緒に戦っていたし、割と相性はいいのかも知れない。
ただ、それだけでは、なんともなぁとも、マナトは思った。
「う~ん……どうなんでしょうか?でも、召し使いさん、常にサーシャさんの側にいらっしゃいますよね」
「もちろんですわ」
「召し使いさんのほうが、そのあたりは分かりそうですけど……」
「そんなことないですわ。わたくしも召し使いではありながら、女性同士、踏み込めない部分もございます」
「な、なるほど。そういうものなんですね」
「……というより、今回、あまりにもサーシャさまの新しい一面がどんどん出てきていて……」
「あぁ……」
キャラバンの村を発ってすぐ、サーシャと会話したときに見た彼女の笑顔を、マナトは思い出した。
「たしかに、初対面のときに比べて、表情豊かになっているような気がしますね」
「そう、そこなんですのよ……!」
召し使いはうんうんとうなずくと、マナトにだけ聞こえるような、小さな声でささやいた。
「さっきの表情、見ました?」
「さっきの?」
「ラクトさんが、ウテナという、このメロの国の知り合いの女性の話をされていたときも、ちょっと、これまで見たことのない表情をしていらっしゃいました」
「あぁ、そういえば……!」
……えっ?それって、つまり?ウテナさんに?
「嫉妬、ですか……?」
マナトの言葉に、召し使いは深くうなずいた。
「……その気持ちが、どこまでかは分かりませんが、そういうことかと」
「マジですか」
「まあ、女性は、そういった面、誰にでもありますので。……ただ、これまで自らの感情を表に出すということがほとんど無かったサーシャさまからすれば、あり得ないことですの」
「そうなんですね」
「シュミットさんが、旅の成せる業だと、おっしゃっていましたけれど……」
「旅の成せる業、ですか」
……たしかに、それは、あるかもなぁ。
マナトは思った。マナト自身、このキャラバンの日々……旅の日々を通して、大きく変わったのは、確かだからだ。
それに、男女の関係が加わってくるとすれば……。
「……ちなみに、」
マナトは召し使いに向かって、言った。
「シュミットさんのに付け足す感じになりますけど……一緒に旅して、時間を共に過ごして、事あるごとに、お互い、支え合ったりしてれば……」
「してれば?」
「誰だって、その相手のこと、好きになっていくの、自然なことだと思いますよ」
「あら、まあ……!」
召し使いは両手で、口を抑えた。何かしらの感情が出てしまっているのを、抑えているようだ。
「あっ、もちろん、相手にもよりますけどね」
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