367 2人の水の能力者①

 「……どうした?」

 「動かないぞ?」


 その異変に歓声は止み、代わりに、ざわざわと声がする。


 「終わったわよ!アンタの勝ち!」

 「相手サロンも引いたぞ!突っ立ってないで、ステージから降りるんだ!」


 仲間も、ステージの下から、オルハンに向かって声をかけていた。


 が、オルハンはそれに答えることはなく、直立不動でステージの上にたたずんでいる。


 「……」


 無言。


 だがその目は、くわっと見開いて、顔の表情も、獰猛種の獣が獲物を捕らえる寸前のごとき凄みが出てきていた。


 「おい!オルハン!」


 サロンの仲間であろう男が、ステージに上がってきて、オルハンに近寄る。


 しかし次の瞬間、オルハンは駆けていた。


 ――ジジジジ……!!


 走りながら、再び水筒から出てきた水流がオルハンの右手を通って、激しく音をたてる水の斧へと変化する。


 ――タンッ!


 ステージの端、オルハンが思いっきり踏み込み、跳躍した。


 「おい!マナト!」


 マナトの前に座っていたムハドが急に振り向いて、大声で言った。


 「気をつけろ!」

 「えっ!?」

 「なんでか分からないけど、アイツ、先の戦いよりもむしろ、今のほうが、修羅の扉が開いている!」

 「!」

 「お前、たぶん狙われてるぞ……!」


 ムハドが言い終わる時にはもう、オルハンはムハドを飛び越えていた。


 「そのいけ好かねえ顔……見つけたぜ!!」


 水の斧を振り下ろし、オルハンはマナトに切りかかった。


 ――ガァン!!!


 振り下ろされる水の斧を、大剣が受け止める。


 ケントが動いていた。


 「おい!!てめぇ、なんのつもりだ!!」

 オルハンが怒鳴る。


 「それはこっちのセリフだ!!マナトは俺たちの仲間だぞ!!」

 ケントが言い返した。


 「なに言ってやがる!!ヤツは……」


 大剣の先……ついさっきまで座っていた、マナトの姿がなくなっている。


 「!?クソッ、ヤツはどこに……!」


 ――ザザ……。


 ステージと観客席の間、空いているスペースに、マナトは着地した。


 「オルハンがいきなり観客席に攻撃したぞ!!」

 「な、なんで!?」

 「てゆうか、今オルハンの攻撃を避けたアイツ、一瞬、空中を移動したんじゃ……!?」

 「なんか、足元に水が流れているようにも見えたけど……!?」


 にわかに周りが騒ぎ始めた。


 ……あ、危なかった~。


 水の斧が振り下ろされる瞬間、マナトはとっさにアメンボを発動させ、緊急回避していた。


 ……というか、なんで攻撃してきたんだ!?


 そんなことをマナトが思っている間に、ケントの大剣をクッションにして、オルハンが切り返してマナトに向かってきた。


 「ちょ、ちょっと!ちょっと待ってください!」


 ――ブンッ!!


 マナトの言葉を完全に無視して、オルハンは水の斧でマナトに再び切りかかった。

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