366 サロン対抗戦④/オルハンの戦い

 ラクトが興奮した様子で、ステージ上の男を指差した。


 「おい!マナト!あれ見ろよ!」 

 「ああ、僕と同じ、水の能力者だ……!」


 マナトは、自分と同じく水を操る黒髪褐色肌の男を凝視した。


 ――おぉ~!!


 ステージ上で起こる現象に、観衆も沸く。


 ――ジジジィィイイイ……!!


 その周りの観衆の騒ぎに負けないほどに、その男の手に集まる水の音が響き渡る。


 ……あんな音が出るなんて、どれほど水を圧縮すればあんなことになるんだろうか。

 マナトは思った。


 「オルハン!!がんばれ!!」

 「オルハン!!勝ちなさいよお~!!」


 ステージの向こう側から、仲間であろう男の声や女の声が聞こえてきた。


 マナトと同じように水を操る男……オルハンが、右手の親指と人差し指で輪っかをつくる。


 ――ジジジ……!!


 圧縮された水流が、親指と人指し指から、勢いよく飛び出した。


 それは水圧を保ちながら、まるで斧のような形状に変化してゆく。


 「けっ!所詮、水だろ!」


 マナト達から見てステージ手前側にいる、相手サロンの男が吐き捨てるように言う。同時に、双剣を構え、腰を低くした。


 「こっちは双剣だ!負けるハズがねえ!」


 ――タッ!


 相手サロンの男が跳躍。双剣を持つ両手が交差した。


 その時、


 「ぅうらああ!!」


 オルハンが、水の斧を思いっきり振り抜いた。


 ――ギギギ……!!


 水の斧を、相手の男が双剣の片方で防ぐ。


 もう片方の双剣が、オルハンに迫る。


 「これでおわ……」

 「ぉおおお!!!」


 ――ギギギィジジジィィィイイ!!!


 双剣と対峙している水の斧がさらに音を立て始めた。それはまるで打ち付けられる滝の如く、激しく雄々しく鳴り響く。


 ――ピキ……!


 「双剣に亀裂が……!」


 気づき、相手サロンの男は、攻撃を仕掛けようとしたもう片方の双剣でも、水の斧を防ぎに回した。


 「もうおせえんだよぉおお!!!」

 オルハンが叫ぶ。


 ――パキキィン……!


 相手の男の双剣が、両方、折れた。


 ――ズァアア……!!


 そしてその勢いのまま、水の斧は相手の男の肩から腰にかけて振り下ろされた。


 「ぐああぁ……」


 相手の男が吹き飛ぶ。鮮血が飛び散り、倒れる。


 「うわ……」

 「す、すげえ……!」


 ミトとラクトは、その男の一撃に驚いて、呆然とステージ上を見つめていた。


 「あ、あの倒れた人……!」


 マナトは、水の斧が直撃して倒れて血を流している、相手サロンの男の人を心配していた。


 「医療班!!」


 どこかで声がしたかと思うと、すぐに医療チームと思われる、薄い青い装束を纏った人々がやって来た。


 その場で、応急措置。それが済むと、倒れた相手サロンの男を担架に乗せて、運ばれて行った。


 「……」


 騒然としていたテント内が、一瞬、静かになる。


 ステージ上には、オルハン一人。


 ――わぁ~!!


 「うお~!!オルハンのヤツ、すげえじゃねえか~!!」

 「水の能力を習得したって聞いてたけど、あんなに強力とは……!」

 「いやでも、やり過ぎだぞ!!」

 「死んだらどうすんだよ!!」


 賛否両論の声が入り交じった声が、ステージに降り注がれる。


 「……」


 ステージ上、それが聞こえているのかいないのか、オルハンは突っ立ったまま、動こうとしていなかった。


 一言も発することなく、ただ、真っ正面を向いて、その茶色い瞳も、一点を見つめ、瞬きもせず、微動だにしなかった。

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