368 2人の水の能力者②/場外乱闘

 ――ズァッ!!


 オルハンの、力いっぱい振り切った水の斧が、勢い余って地面を斬る。


 「!?またいねぇ……!」


 オルハンの目の前から、マナトがまた消えていた。


 「クソッ、どこに……あっ!」


 ステージの四隅に立てられた、オレンジ色に光るマナの照明灯。テントからぶら下がっているマナのランプとは別に、ステージをより明るく照らしている。


 ――スタッ。


 その照明灯の一つの上に、マナトは着地した。


 「なんだなんだ!?」

 「なんかすごいことになってるぞ!?」

 「じょ、場外乱闘だぁ~!!」


 ――うぉ~!!


 観客全員が総立ちになる。予想外の出来事に、かえって観衆は盛り上がった。


 ――シュルル……。


 細い水流が、マナトの周りを巡っている。


 ――ブクブクブク……。


 そして、マナトの両足元に、水流は集まっていた。


 「てめぇ、水の能力を使えたのか……!」

 「て、てめぇって……」


 ……い、いったいなんなんだ、あの水を操る人は。


 マナトはいきなり攻撃してきた相手……オルハンを照明灯の上から見下ろしていた。


 ……き、危険すぎるんですけど。


 いきなり攻撃してきた上に、水の斧による2回の斬撃とも、殺意満々。当たったら終わりだ。


 また、オルハンの話の端々に、向こうにとっては、自分が顔見知りであることが見受けられた。


 ……いや待て。僕が気づいていないだけで、もしからしたら、会ったことが……?


 ものすごい形相でにらみつけてくる、オルハンの顔を改めて見る。


 ……いや、ぜっっったい、一度も会ったことないよね!!どちらさまもいいところだよね!!


 困惑したまま、なんとかしようと、マナトはオルハンに話しかけた。


 「と、とりあえず、お、落ち着いてください!きっと、人ちが……!」

 「てめぇの口車なんざ、乗らねえ!!!」


 オルハンが叫ぶ。腰を低くし、攻撃の構えを取った。


 ……うそぉおん。


 ――ジジジジ……!!


 オルハンが右手を大きく振りかぶった。


 「前は不意打ちくらったが……俺のウォーターアックスはあんなもんじゃねえからな!」

 「いやなんの話ですか!?」

 「今度は負けねえからなぁ!!」

 「いやだからなんの話ですかぁ~!?!?」

 「くらえ!!」


 マナトの発言を一切無視して、オルハンが水の斧……ウォーターアックスを振るう。


 ――ジジジジ~ジジジ……!!


 「斧が伸びてきた……!」


 照明灯の上にいるマナトに向かって、ウォーターアックスのやいばが襲いかかる。


 ――シュルル……!


 水の導線が、マナトの足元に溜まった水の塊から放たれた。


 それとほぼ同時に、マナトが照明灯から離脱。


 ――ガッシャァァアアアン!!


 照明灯が、伸びてきたウォーターアックスで破壊された。


 「うわぁ!!」

 「キャァアア!!」


 照明灯の破片が観客席に飛び散り、悲鳴が上がった。


 ――スィィィイイイ!!


 水流の上を、マナトが滑走する。


 「なんだ……!?」


 オルハンが目線でマナトを追った。


 ……仕方ない。こうなったら……!


 ――シュルルル……。


 滑走しながら、マナトは左手に水を溜めた。


 その左手を、上から右手で蓋をする。


 「……」


 先の攻撃でウォーターアックスがまだ照明灯側にあるオルハンに、マナトは狙いを定めた。


 「テッポウウオ……!」


 ――ピュンッ!!


 マナトの両手から、細い水の光線が放たれた。

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