369 2人の水の能力者③/マナトの叫び

 ――ビィィイイ!!


 「ぐぅ!?」


 オルハンの顔にテッポウウオが直撃。水圧に負けて、バランスを崩した。


 ――おぉ~!!


 マナトの一撃に、観衆は沸いた。


 といっても、小口こぐちのテッポウウオは、相手はビックリするだけで、ほとんどダメージはない。いわゆる、目眩まし的なものだ。


 「なんの……!」


 とっさに地面につけた左手を軸に、オルハンは倒れそうになるのを、鮮やかな側転でやり過ごした。


 ――おぉ~!!


 オルハンの対応にも、観衆は沸いている。


 ……い、今のうちに!


 「ムハドさ~ん!!みんな~!!」


 相手が体制をたて直している隙を見て、マナトはムハド達みんなのほうへと振り向いた。


 「あ、あそこにいるハチャメチャな人を、なんとかしてくださ~い!」


 言いながら、マナトはオルハンを指差した。


 もともと、相手とまともに勝負するつもりなんて、マナトにはない。それも、観戦してたらいきなり襲いかかってきた、完全な危険人物。


 ……あんな人、みんなで取り押さえるしかないでしょ!


 「マナトぉ~!」


 ムハドが両手を口にあてて、大声で返事した。


 「なに言ってんだ~!いいところじゃねえかぁ~!」

 「……ホワッツ!?」

 「この後に、俺たちの試合が控えてるけど、その前哨戦って感じで、いいじゃねえか!みんな、お前らの戦い、見たいんだよぉ~!」


 ……いや、違うよね!?そういうのじゃないよね!?


 「で、でもさっき、ここ来る前、僕、ムハドさんの目線、なかったし……」

 「なぁ!みんなも、そう思うよなぁ!?」


 ――わぁ~!!


 ムハドの掛け声に、隊のみんなどころか、テント内にいる観衆全員が、同意の歓声をあげている。


 「あっ、えっ……ちょっと……!」


 予想外の展開に当惑したマナトは、ケントを見た。


 「け、ケントさ~ん!!」


 さっき、冷静に大剣を抜いて助けてくれたケントに、マナトは懇願するように言う。


 「お願いしますぅ!そこにいる男の人を……」

 「いや、なんかみんな、盛り上がってるし、いいんじゃねえかな」


 ケントが、笑顔で、朗らかに、言った。


 「……ミト~!!ラクト~!!」

 「マナト~!相手に血を流させたら、勝ちだよ~!頑張って~!」

 「おいマナト!お前の実力はそんなもんじゃねえだろ~!?ぜったい勝てよぉ~!!」


 ……なんてこった!


 「頑張って!マナトさ~ん!」

 「マナトお兄ちゃ~ん!いけ~!」


 ミト、ラクト、また他のメンバーも、完全に周りの観衆のノリと一緒になってしまって、2人の戦いを楽しんでいる。


 「う……嘘だぁぁあああ!!!」


 マナトは叫んだ。


 「てめぇに助けなんざ、来る訳ねえんだよ!!」

 「!?」


 オルハンが跳躍していた。ラクトほどのスピードはないが、鍛練を積んだであろう、素早い動きでマナトに接近する。


 「るああ!!」


 ウォーターアックスの一閃。


 ――バシュッ!


 マナトの足元で、水の弾ける音。


 アメンボの初動による高速移動で、ウォーターアックスの刃をかすめながらギリギリで回避。


 「あ、危な……!」

 「逃がすか!!」


 オルハンがすかさず地面を蹴る。


 ……いやマジで、どうすりゃいいんだ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る