162 能力者について

 開けた酒樽の中が空っぽとなったところで、宴は解散となった。


 皆、それぞれの宿泊スペースへと戻ってゆく。


 「ラクト、大丈夫?」

 「うぅ~ミトのやろぉ~このやろぉ~」


 マナトに肩を抱かれたラクトが、うめき声をあげた。


 もう一人の同郷のメンバーも、同じ商隊の者達に背負われ、回廊へと消えていった。


 宿泊スペースに戻ると、ラクトはフラフラと歩きながら、布団の敷かれた就寝床まで行き、身を投げた。


 ――グゥ~。


 うつ伏せのまま、もう寝ている。


 マナトはラクトに毛布をかけてあげた。


 ――す~。


 「……まさか?」


 マナトはラクトの隣の就寝床を見た。


 ミトが気持ちよさそうに、すやすやと眠っていた。


 ……まあ、そんなことだろうと思ってたけど。


     ※     ※     ※


 昼過ぎに、ジェラード商隊はサライを発った。


 「えっ、なんだよ。ミト先に戻って寝てたのかよ……!」

 「そうそう」


 マナトとラクトは商隊の後方を歩きながら、ヒソヒソ話していた。


 「じゃあ、なんにもなかったのね……」


 それはそれで、何か物足りないといった感じで、ラクトが言った。


 ちなみにラクトは酒に強く、昨夜、あれだけ飲んだのにも関わらず、朝起きてからは二日酔いの気もまったくなかった。


 ミトもミトで、商隊の中腹あたりでリートと話をしながら、これまたいつも通りだった。


 「つ~か、昼まで思いっきり、ジェラードさん寝てたな」

 「あはは……」


 目的地である湖の村へ向け、商隊は進む。


 マナトは商隊の先頭を歩くジェラード、そしてミトと話しているリートを見た。


 ……ジェラードさんも、リートさんも能力者。


 このヤスリブにおける、マナの力を取り込み、何らかの能力を得た人間、能力者。


 長老によれば、『十の生命の扉を開く』ことが、マナの力を取り込む条件なのだとマナトに説明してくれた。


 ジェラードとはほとんど話していないが、リートとは、長老の家の書庫で、そこそこ話した。


 リートもマナトと一緒で、マナを取り込んだ時は、その十の生命の扉を意識することはなかったのだという。


 だが、アクス王国で出会ったルナは、取り込もうとしたマナをすべて吐き出してしまったと言っていた。


 やはり、人間の中で何かしらマナを取り込む、準備なのか、素質なのか、そういったものはあるようだ。


 リート、ジェラード、そして、マナト。共通するものは、何か。


 ……あっ、ぜんぜん分からないや。


 いや、むしろ、いろんな意味で、全員、違うタイプだ。


 性格や、身体の屈強さなど、そういったものは、おそらく関係ないのだろう。


 ……そういえば、長老、普通の人間は、扉は六つまでとか、言っていたな。


 ……十の生命の扉って、何なんだ?


 ……いやむしろ、六つの扉すら、どういったものなのか。


 マナトが歩きながらひたすら考えていると、ジェラードが振り返った。


 「そろそろ、目的地付近だ」

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