161 サライでドキドキ

 「えっ、何この人、いきなり裸になって……気持ち悪い……!」


 ジェラードを見て、案の定、女子メンバーはドン引きしている。


 「だ、ダメだ!あの顔は引いてる!完全に引いちゃってるよあのコ!」

 「服着て!」

 「ジェラードさん!」


 マナトとラクト、同郷のメンバー3人の声も届くことなく、ジェラードはその肉体美を存分に見せつけた後、少し横向きになり、顔だけミトの隣にいる女子メンバーへと向けて……


 「キミ、かわいいねぇ……」


 ダンディーな声が響いた。


 「ひぃ……!」


 女子メンバーが悲鳴と共に立ち上がり、

 「み、ミトくん!あっちいこ!」


 ミトを連れて、回廊の中へと足早に入っていってしまった。


 「あ~あ、ま~た脱いでやらかしてるっすね~……ムグムグ」


 リートがマナト達のもとへやって来て、おつまみを食べながら言った。


 「リートさん、ジェラードさんって……?」

 「ムグムグ……あぁ、気にしなくていいっすよ。わりといつものことなんで」


 ゆらゆら揺れるたいまつの火が、ジェラードの背中を照らした。


 「……それにしても、やっぱり、すごい傷ですね」

 マナトが言った。


 「あぁ、あの傷、セラにつけられたヤツっす」

 「えぇ?」

 「さっきみたいに、セラの目の前で後背筋を見せつけた時に、ザックリいかれたっていう」

 「うわダッサ……」

 聞いていたラクトがつぶやいた。


 ジェラードが戻ってきた。


 「やれやれ、釣れないなぁ……」

 「いや当たり前ですよ!!」

 「おつで~す」

 「いやリートさん、おつで~すじゃ……」


 ――ザッ。


 近くに、複数の気配を感じた。


 「なかなか、いい筋肉じゃあないか」

 「俺たちも、黙っちゃあ、いられないなぁ」


 見ると、他の村や国のキャラバンの筋肉自慢達が、マナト達の周りに集結していた。


 ジェラードの上半身を見せつけられ、どうやら火がついてしまったらしい。


 「ぬン!」

 「ふん!」


 皆、服を脱ぎ捨て、各々ポーズを取り、彫刻と化した。


 「ほう……ムン!!」


 ジェラードが再び前に出て、自慢のポーズを決めた。


 「ぬぅ、その後背筋、なかなか……!」

 「あなたこそ、その三角筋、切れっきれじゃないか……!」


 即興の筋肉披露が、目の前で繰り広げられている。


 「おい、なんだ、この状況……」


 呆然と見ていたラクトが、少し引き気味に言った。


 「ちなみに僕の前にいた世界では、こういった大会、あったよ」

 「マジかよ」

 「……って、あれ?」


 リートが、気がついたように言った。


 「てゆうか、ミトくん、戻ってこないっすね」

 「……はっ!!」


 ラクト、マナト、同郷のメンバーが、目を合わせた。


 辺りをキョロキョロ見渡したが、ミトの姿は見えない。


 もちろん、先にミトと一緒にいた女子メンバーも。


 「ちょっ、おいおい、ミト、もしかして……お、お持ち帰り!?」


 この状況、さすがにラクトも動揺していた。


 「いや、この場合は、お持ち帰られじゃないかな?」

 「おいマナト!そそそれって、つ、つまり、そ、そういうコト……」

 「いや、まあ、ミト次第だろうけど……」

 「く、くそっ!なんか、なんか分かんないけど、なんだ!この気持ちは!」

 「……ち、ちくしょう!!」


 隣にいた同郷のメンバーも叫んだ。


 「さ、酒を!もっと、酒を!!」


 ラクトと同郷のメンバーが、お互い酒を酌む。


 「うわぁああああガブガブガブ」


 痛飲する、ラクトと同郷のメンバー。


 「むん!」

 「ふん!」


 まわりには、見せつけ合う、ジェラードと筋肉自慢達。


 ……もはや、カオス。

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