160 その男、ジェラード

 中庭の端の、背もたれのある腰掛けに座って、ミトと例の女子メンバーは楽しそうに話している。


 揺れるたいまつが、2人の表情を照らした。


 「……村の緊急召集の時にマナトが言ってた通りだ。アイツ、やっぱモテるんだなぁ~」

 「だね~」

 「まあでも、なんていうか、ミトはいつもの表情だな」

 「うん。ミトって、誰に対してもニュートラルだよね。そこもモテる要素なのかなぁ?」

 「どうなんだろうなぁ」

 「ふむ……」


 マナトとラクトが話していると、ジェラードも関心した様子で、ひと際低めの、ダンディーな声でつぶやいた。


 「ミト、なかなか、やるじゃないか」

 「はは……ウチのは、俺と話す時とは明らかに表情が違うぜ」


 一緒に飲んでいた、同郷のメンバーが苦笑しつつ、ぼやくように言った。


 ミトの横で、幸せそうな、女子メンバーのかわいらしい顔がたいまつで照らされる。


 「はぁ……」

 「まあまあ、そんなに落ち込まないで」

 「うぅ……べ、別にアイツのことなんて、好きじゃないけど。なんか、男としてショックだぜ……」

 「好きじゃないなら、別にいいじゃないですか」

 「そうだけどよ~」


 ――ファサッ。


 3人の目の前に、白装束が落ちてきた。


 「えっ?」

 「ジェラードさん……?」 

 「どうし……」


 振り向くと、ジェラードが、上半身に着ている白装束を脱ぎ、次いで肩掛けも解いていた。


 さらにその下に着ているインナーにも手をかける。


 「ちょちょっ!?ジェラードさん!?」

 「んん~。いや、ちょっと、暑くなって」

 ジェラードが言う。


 「暑い?いや夜だし、ぜったい暑くないで……」


 言っている間に、ジェラードはもう、上半身裸になってしまっていた。


 「フィ~」


 少し日焼けした、鍛え上げられたその肉体は見事で、腹筋は見事なシックスパック、盛り上がった胸筋に、腕の上腕二頭筋も切れっきれだ。


 そして、その裸体をさらしたまま、ジェラードはゆっくりと歩きだした。


 「せ、背中に大きな切り傷が……!」


 ジェラードの背中に、右斜め一閃につけられた、大きな切り傷の跡があった。


 「あんな傷跡……どんな死線を、くぐり抜けてきたんだ?」

 「……ジェラードさんは、ムハドさんの商隊の最古参だ。交易の中で、いくつもの危険をくぐり抜けてきた、歴戦の猛者であることは、間違いない」


 同郷のメンバーが話している間にも、少しずつジェラードは進み続けている。


 「それに、能力者でもある」

 「えっ!」


 ……ジェラードさんも、能力者なのか。


 マナトは同郷のメンバーを見た。


 「能力って、どういう……」

 「詳しくは分からない。ムシュマのマナを取り込んでいるらしいが……ジェラードさんが人前で能力を使うことがほぼないんだ。あの肉体で、どうにかなることが多いから」

 「な、なるほど」

 「おい、中庭の中央を通り過ぎたぞ……」


 ミト達の手前までやってくると、ジェラードは仁王立ちした。


 「ヌンッ」


 ジェラードは、ポーズを取り始めた。


 ――ピュォオオオ。


 「ムンッ」


 ――ポポポン。


 「ンンッ」


 中央で奏でられる演奏に合わせながら、ジェラードはポーズを変えてゆく。


 「……」


 それを見ていた3人とも、唖然とするしかなかった。


 と、ミトの隣にいた女子メンバーも、目の前でポージングするジェラードに気づいた。

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